真実

「ギンです」


 ギンが、ビシッと手を挙げる。カメラがあれば……。運動会の親の気分。顔が緩むのが分かる。


「ギンだえ~」

「は? 待て。これは、喋るのか? さっき聞こえたのも、空耳ではなかったのだな」

「ギンちゃん、こっちはオスカーだよ」

「オスカーだえ?」


 ギンがカサを傾げた後、テケテケとオスカーの元に走り手を上げる。

 オスカーは、ギンの行動が分からず戸惑っているようだ。


「これは、何をしているのだ」

「ギンね。握手かな? ギンを、潰さないようにお願い」


 オスカーが、人差し指をギンに近づける。ギンが、オスカーの指にハイタッチして、こちらに戻ってくる。オスカーは、ギンにタッチされた指を訝しげに眺めながら呟く。


「魔物にしては、不思議だ」

「ギンちゃんは、魔物じゃないし」


 エディとリーヤは、困惑した顔でこちらを眺めている。ギンが見えてないのだろう。二人から見たら、オスカーの行動は一人エアタッチ。

 オスカーも、その雰囲気に気付いたようで尋ねてくる。


「これ……ギンは、他には見えないのか?」

「良く分からないけど、勘が良い人にしか見えないのかな? 他に存在を気付いたのは、冒険者ギルド長くらい」

「そうか。それで、それは従魔なのか?」

「ギンちゃんは……マスコットかな」

「ますこっと……それは、なんだ」

「可愛いって事」


 オスカーが、ため息を吐く。

 ギンちゃんが、全ての人間に見えない事は良いと思う。こんなに可愛いから誘拐されちゃう。ギンに頬擦りをする。

 オスカーが、咳払いしながら話を変える。


「それで、カエデは東出身なのか?」

「良くそう言われるけど、その東ってどこ?」

「東の出ではないのか?」


 地味に探り入れてきてんな。

 オスカーは、洞窟の初見より……なんだろう、こう、良いおぼっちゃまの隠しきれない雰囲気が滲み出ている。


「そうです。東出身です」

「堂々と嘘を吐くな! 先程まで、東の場所も知らないと言っただろうが!」


 オスカーが、興奮してまた咳き込む。エディがハンカチを持っていき、甲斐甲斐しく世話をする。

 オスカーだし、本当の事言っても問題ないと思う。逆に貴族パワーで、欲しい情報が手に入るかもしれない。


「じゃあ、真実だけいうよ。実は、別世界から死の森に転移して、オスカーたちと会った時は森を抜けてた所だったんだよ」


 オスカーが、暫く目を合わせた後に深く……更に深くため息を漏らす。


「はぁ。作り話はもう良い。話したくないのであれば、身元の事は聞かない」

「えぇぇ」


 何、その可哀想な子を見る目。真実のみを打ち明けたのに!



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