領主邸

 ユキに乗って馬車を追う。大したスピードではないが、町中の人の注目の的。付いてきているうどんは、何故かドヤ顔。

 ギンが髪の中から顔を出し、前方を指差す。


「カエデ、アレアレ」

「うん。アレが領主邸っぽいね」

「ギンもだえ~」

「うん。ギンも行くよ」


 ギンが、収納していた戦利品の小さなブローチを頭につける。


「ギンも正装してるの?」

「ギンだえ~」


 ギンの存在が愛しい。

 領主邸の門に到着。領主の馬車なので、開門はしたが、門番がユキたちに驚きながら尋ねる。


「後ろのそれは、狼か? 随分と大きくないか?」

「冒険者ギルドのガークだ。これが、領主様の招待状だ」

「た、確かに……だが、確認する迄、暫し待たれよ」


 門番が、本邸に向かい走っていく。ガークが振り向き、呆れた顔で言い放つ。


「だから、置いていけといったんだ」

「セットだから無理」

「はぁ。分かったから、頼むから問題は起こさないでくれ」


 信用度低いな。思い返せば、ガークに信用してもらうほど成果は出していない。それに比べ問題は……それなりに起こしている。

 安心させる為にも、ガークに精一杯の笑顔を向ける。


「全然、大丈夫だよ。めっちゃ頑張る」

「なんだよ、その笑顔。お前は、頑張りすぎるな。分かったか? 何もするな」


 そんな力んで言わなくても、問題起こさないって!

 門番が戻り、ユキたちの許可が出た事を知らせる。


「ただし、邸宅には入れぬよう願いたい。理解したか?」

「分かりました」

 

 ここは、仕方ない。そりゃ、知らない動物を家に入れるの嫌な人もいるよね。

 領主邸の玄関には、フェルナンドが従者と共に出迎えてくれた。相変わらずデカイ。フェルナンドを見上げながら、挨拶をする。


「お久しぶりです」

「うむ。数日振りだ。町での滞在で不便はないか?」

「特にないですが、成人女性だと認識してくれない人が多いです」


 ジロリと隣を睨むと、ガークがビクッと動いた。


「ほお。それは、酷いな。そのような者は罰せねばな」

「大丈夫です! もう罰は考えてあるので」

「それは、残念であるな。なぁ、ガーク」

「フェルナンド様、また、ご冗談を……」

「クク。ガークも息災で何よりだ」


 フェルナンドとガークは顔見知りのようだ。そんなに大きな町ではないから、銀級の冒険者だったら領主家とも関わりはあるよね。

 領主は現在別の謁見中らしく、待ち時間はフェルナンドが相手してくれるらしい。


「ガーク、外せ。カエデと二人きりで話すことがある」

「しかし……はい。畏まりました」


 ガークが心配そうな顔でこちらを伺う。大丈夫と丸サイン送るとため息を吐かれた。

 ガークは、ユキたちと共に待つ事になった。


「ガーク、これボール。うどんの玩具だから、投げたら追い掛けるはず」

「俺とも遊ぶのか?」


 ガークがボールを投げると、うどんがウズウズしながら私を見る。


「大丈夫だよ。気が済むまでこの人が投げてくれるから」


 安心して遊んで良いと告げると、うどんは猛スピードでボールを追いかけて行った。


「ガーク、後はよろしく!」

「……ああ」




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