フェルナンドの話

 フェルナンドの従者の案内で、サンルームの部屋に入る。席に着き紅茶が運ばれると、フェルナンドが従者に指示を出す。


「お前も、外せ」

「畏まりました。失礼いたします」


 フェルナンドと二人きりのサンルームで、紅茶を啜る。高級な紅茶だ。良い味わい。


「薄々気づいておるだろうが、本日ここに其方を呼んだのは、兄上ではなくオスカルゴ様だ」


 全然気づいてなかったよ。正装して来なくても良かったじゃん。


「オスカー……ルゴ様は、お元気ですか?」


 オスカーと呼ぼうとしたら、フェルナンドに物凄い形相をされたので、誤魔化した。


「数日は体調を崩されていたが、今は順調に回復に向かっている。オスカルゴ様の事は誰にも口外しておらんだろうな?」

「勿論です。というか、今まで忘れていました」


 フェルナンドの右眉がピクリと動く。

 いや、カエデちゃんだって怒涛の数日だったんだぜ。忙しくて、抜けてたんだって。


「其方は……。まぁ良い。この後、オスカルゴ様との謁見に向かってもらう。良いな」

「はい。大丈夫です」


 オスカーと会うって分かってたなら、市場で見かけたカタツムリっぽい彫り物を買ってきてたのに。領主よりも、顔見知りのオスカーに会う方が楽で良い。フェルナンドが紅茶のカップを皿に置き、こちらを直視する。


「時に、やはり、あの首はイルゼだと断定されたようだな。お手柄だ」

「賞金も貰えて、ラッキーでした。色々、配慮いただいたみたいで、ありがとうございました」

「良い。しかし、あれの兄は凶悪犯だ。くれぐれも気をつけて行動するように」


 イルゼの兄は、なんけ……身体を持っていく賊の賊頭。以前見た、人相書きの賞金は金300と書いてあった。

 フェルナンドは、相変わらず子供を宥める用に話しかけてくる。


「私、28歳ですよ」

「分かっている。分かっている」


 絶対、分かってなさそう。

 

 そんな会話をしていたら、扉がノックされ謁見の準備が整ったと伝えられる。

 フェルナンドと共に、オスカーのいる部屋まで向かう。


「オスカルゴ様、フェルナンドです」

「入れ」


 オスカーの声だ。以前より凛々しく聞こえる。

 部屋に入ると、オスカーが窓際の椅子に立派な椅子に座っていた。私を見ると、杖を使い立ち上がる。まだ、感覚が掴めないようだ。


「カエデ、数日ぶりだな」

「オスカーも、前より元気そうだね」


 フェルナンドが、愛称を呼んだ事を注意しようとしたが、オスカーが制止する。


「良い。今日は、命の恩人と話がしたいだけだ」

「仰せの通りに。それでは、わたくしは退席の許可をお願いいたします」

「卿の気遣い感謝する」


 フェルナンドが、去る前にこっそりと『失礼ないように、頼んだぞ』と言い残し退室して行く。


「済まないが、これ以上は立っていられないので座らせてもらう」

「うん。大丈夫? ポーションあるよ?」

「秘密のポーションであるか、背に腹は変えられない。頼む」


 水を入れるコップを従者にもらおうとしたら、オスカーの隣で世話するエディが目に入る。え? エディ? 振り返るとドアの内側には、メイド服を着たリーヤがいた。

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