え?

「カエデ、領主からの呼び出しだ。本日応えるよう」


 朝から宿の部屋前にガークが来て告げる。目覚めたばかりで、目を擦りながらガークの話を聞く。欠伸あくびをしながら時計を見ると朝の6時だ。


「領主?」

「そうだ。賊の討伐の事だろう。ギルド長がカエデ一人では不安だろうから、俺が付き添うよう言われている」


 ギルド長か……ピザ食べたい。

 領主は、フェルナンドのお兄さんって事か。フェルナンドは普通に良い人だったが、兄の方はどうなんだろう?


「今日行くの?」

「領主様の呼び出しは、出来るだけ直ぐに応えるのが礼儀だが……その服はダメだ」


 自分の着ている服を見る。Tシャツに市場で買ったスパッツのズボンだ。分かるよ。これでは行けないよね。


「こんな感じのしかないんだけど——」

「カエデ~。これだえ~」


 ギンに髪を引っ張られ、布を渡される。不思議な事にガークは一切ギンの存在に気付いていない。思い返せば、ギンの存在に気付いたのは、オスカーとギルド長のマルゲリータくらいだ。

 ギンに渡された布をピラっと拡げる。おぅ。これは賊のお宝部屋から回収していたクロッチレスパンティだ。


「お前は! 朝からなんてもん出してやがんだ!」


 ガークにクロッチレスパンティを奪われ、ジト目で見られる。いや、カエデちゃんチョイスじゃないよ?


「えーと。間違えました。返して下さい」


 ガークが、若干クロッチレスパンティを返すのを渋っている。別に履く予定もないから、返さなくて良いけど……


「ガークには、サイズが小さいと思うけど?」

「誰がこんなの履くか! 人前で、簡単に出すんじゃない。女に嫌われるぞ」


 クロッチレスパンティを再びギンに収納する。今思い出したが、賊のお宝部屋で血の付いた子供服をギンに収納していた。

 子供服を出す。ジャケット部分には血が付いていないようだ。


「これなら、どう?」

「お、ちゃんとあるのかよ。戦利品か? シャツは使いもんにならないが、上のは着れるな。これなら大丈夫だ。残りはギルドで借りろ」


 ギルドに向かう準備をする。話し声で起きた双子に、今日は出掛ける事を告げる。本当だったら、今日は三人で依頼を受ける予定だった。簡単な依頼だったら、私がいなくても出来るよね。


「依頼だけど、町で出来る奴をイーサンと相談して受けるで大丈夫?」

「「はーい」」


 宿を出てギルドに向かう。ガークに案内されたのは、ギルドの一室の衣装部屋だ。中古の服の臭いがする。


「貸し衣装だから、文句言うなよ?」

「文句はないけど、こんな事までギルドでやってるんだ」

「一介の冒険者が、公式の場に出る服なんぞ買えないだろ?」


 そういえば、服高かった。

 ジャケット以外のシャツとズボンや靴を探す。


「ガーク、ズボンが全部長すぎるんだけど」

「裾を折り曲げろ」


 シャツはジャケットがあるから誤魔化し効くけど、靴は無理。


「ねぇ。女性用はないの?」

「はぁ? 公式の場で女装はダメだろ」

「……え?」

「え?」

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