元銀級
「あら。仲良いのね」
初めてこの町にきた日に、宿の前で会ったシーラだ。相変わらずギリギリなラインの服に、モモンガ風のピピンも定位置にいらっしゃる。眼福。心の中で拝む。
イーサンの鼻から手を離し、汚れた手はイーサンの服で拭く。
「シーラさん! こんばんは」
「私も一緒に座っていいかしら?」
「「どうぞ!」」
双子が自分たちの間の席に座るようシーラに勧める。
結局、双子の間に座ったシーラと向かい合う形でテーブルに座る。なぜか、私の真横にはイーサンが座っている。
「イーサン。隣の席から、こっちに移ったん?」
「お前……どさくさに紛れて、俺の服で手を拭いただろ?」
「……モグ」
「なにもなかったかのように、食事し始めるなって!」
うるさいので、イーサンにビールを奢る。手で服を拭いたことは、いち早くイーサンの頭から飛んでいく。本当、美味しそうにビール飲むよね。
「イーサンも久しぶりね」
「そうだな……」
二人の間には何かありそうだ。恋人という感じでもないが、お互いに気まずそう。
双子もチラチラと二人の顔を伺い始めたので、シーラが微笑んでイーサンとの関係を話す。
「私たち昔、パーティを組んでたのよ」
「「「そうなの!?」」」
「昔のことだ……」
イーサンは、パーティ時代の話はしたくないようだ。パーティの話は気になったが、イーサンの気分が見るからに落ちてる……また今度、聞ければいっか。
別の話でテーブルは盛り上がる。盛り上がった主な話は、シーラさんの冒険者としての成功と失敗の話とイーサンの酒の失敗の話。シーラさんの冒険者階級は銀級と結構な先輩だ。そしてなんと——
「え! イーサンも銀級なの?」
「元だ元。もうその話はいいだろ」
イーサンは、明日も仕事だから寝ると残りのビールを一気飲みして食堂を出る。
双子もウトウトしているし、ここらで解散するか。
「シーラさん。今日は色々なお話をありがとう」
「私も楽しかったわ。イーサンがあんな感じでごめんなさいね」
解散して、部屋に戻ろうとしたが……シーラさんがイーサンの話を始めたので、大人しく座りビールの追加注文をする。
「パーティ組んでた頃は、あんなじゃなかったのよ」
イーサンは、そこそこ知れた冒険者だったらしい。パーティも活躍していたが、とある依頼で仲間割れ。イーサンは、その所為で怪我をしたことで冒険者を引退してギルドで働いているらしい。怪我をしたのは、利き手で剣が握れなくなったとシーラはいう。確かに右手をずっとポケットに入れてた。
「イーサンは、強かったんですか?」
「ええ。剣術は素晴らしかったわよ。ガークと張り合えたんじゃないかしら」
ガークの剣術は知らない。双子によると『すごくカッコいい』という話だ。
シーラと別れ、ベッドに入る。双子は、既にお休みの国へ到着している。
「はぁ。早く日本に帰りたい」
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