冒険者試験 3

「カエデ。武器の方は合格だが…もう、的は壊すなよ。分かったか? 次に壊したら、弁償してもらうからな」

「き、気をつけます」


 ガークが、新しい藁人形を設置したので、試験を再開する。次は、ミロだ。ミロは、藁人形を数回切りつけた。衝撃の反動でよろめいたが、しっかりと剣を振った。


「そこまでだ。武器は合格だが、冒険者登録の後に剣の講習を受けろ」

「は、はい」


 ミラの番になり、ミロと変わらない回数剣を振る。最後は、力強く藁人形の心臓部分に短剣を刺した。ミラも合格だが、後で剣の講習を受けるよう勧められる。

 カイの剣捌きは双子よりも上手い。動きがスムーズだ。剣の講習を受けたって言ってたし、荷物持ちだったけど…練習していたのかな? カイも合格する。ガークは、カイを知っていたようで、前より上達したと褒めていた。

 ペナルティの男女は、さすが冒険者をしていただけあって、手慣れた感じだ。もちろん合格。


「おし。次は魔法だ。ついてこい」


 エミリア組と試験場所を交代する。あちらは、二人が試験に落とされたようだ。ガークから魔法の試験の説明がされる。数カ所の別の位置から的を当て、魔法の正確さを見る試験という事だった。大丈夫。当てるのは、得意だ。前へ出る。


「待て。お前は、最後だ」

「えぇぇ」


 仕方ないので、大人しく回れ右をする。カイが最初に挑戦する。以前、魔法の試験に落ちたカイは、表情を引き締め試験に望む。

 呪文を唱えると、ウィンドカッターの刃が数本出てきて的に当たる音がする。的は木ではなく黒い石だが、カイの刃が通った表面部分は抉れている。数カ所場所を変えて的を狙う。八割の確率で攻撃が当たり、試験が終了する。


「カイ。合格だ。上達したな。よく頑張った。見ろ。ここ抉れてんぞ」


 合格の証明の青札を受け取ったカイは、はにかみ笑顔だ。冒険者登録には時間が掛かるようで、合格した順番で先に上の受付に行く。

 ペナルティの男女も、風魔法で的を狙い撃つ。


 シュシュ。カンカン


 あれ? カイより威力も命中率も低い。普通は、こんな…なの? それでも、二人は合格して青札を貰う。

 ミロとミラの番だ。二人とも練習した通り、上手く火魔法を的にぶつける。命中率はカイより低いけど、無事合格だ。


「「カエデを待つよ」」

「ううん。時間かかるみたいだから、先に行って。あ! あの寝ていた受付じゃない方に行ってね」

「「はーい」」


 さて、一人残された私の番だ。ガークが遠くに下がる。なんか失礼じゃね? 私が選ぶのは、もちろん土の魔石だ。威力は…弱くていい。当たればいいんだ。魔石は袖の下に入れる。ガークもあれだけ離れていれば、ボコッとした袖も見えないだろう。詠唱は、他の者と同じように長く言おう。聞こえないだろうから、適当に声を抑えて唱える。


「ゴニョニョニョゴニョ石ゴニョゴニョバンバン」


 石の弾丸を出す前に、双子の融合した火魔法のドリルを色々と連想してしまう。あれって、攻撃力高まりそう…石の魔石でも出来る? など考えていたら、パンパーンと手元から石の弾丸が放たれる。的に当たると同時に火花が飛び、キュイーンと音がする。なんの音? 当たっているから、大丈夫だよね? うん。多分大丈夫。次の場所に移動して試験を続ける。的が近いってのもあるけど、百発百中だ。少ない反動なのに、石に食い込む威力。楽しい! カエデちゃんノリノリだよ! 的のど真ん中に当たった瞬間、思わず『ナイスぅー』と叫ぶ。

 全てが終了したので、ガークの元に行くが、無言だ。


「終わりました」

「…今のは…なんだ?」

「土魔法——あ、ちょっと!!」


 ガークに首根っこを掴まれ、的の場所に連れていかれる。ガークは、跳ね返って落ちた弾丸を拾うと、『見ろ』と顔の前に差し出される。石の弾丸は、まるでドリルネジのような形をしている。


「もう一度聞くぞ。なんだこれは」

「ネジ?」


 お前の頭はネジが外れてんのかと上手い事を言いながら、前後に揺らされる。ドリルを連想したら出てきたんだって。私だってそれがなにか知らない。正直に言ったのに、私だけ扱いが酷いと思う。カイや双子にはもっと優しかった。


「はぁ…合格だが、これをあんまり人に見せびらかすなよ。お前の為に言ってるからな」


 気をつけますと言って、青札を受け取った。





 

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