Saba

 宿の受付に魔法の練習場所を聞くと冒険者ギルドの受付に行けと言われた。双子と冒険者ギルドに向かう…と言っても、宿屋の隣だから歩いてすぐ。


「カエデ!!!」


 ギルドに入る寸前に声を掛けられる。カイだ。おー。探す手間が省けた。カイは、昨日普通に門番を通過して、私達を中の門の前で待っていたそうだ。なかなか出てこないので、門番に聞いたが…誰も答えてくれず…仕方なく、一度借りている部屋に帰って、早朝から冒険者ギルドの前で待っていたそうだ。


「アリアは?」

「アリアは…その…俺の部屋一晩過ごして、今はパーティで借りた部屋を整理してる」

「へー。一晩ねぇ」


 照れてる感じを見ると、カイはアリアに好意があるのだろう。私には、分からないけどね…アリアは、カイを見殺しにしたパーティの一人だったよ? こちらの世界では、そう言うのは許容範囲? ドアマットじゃん。


「カイ…君に幸あれ」

「なんだそれは…それよりも、冒険者登録をするのか?」

「その予定だね」


 カイに双子の事情を説明する。孤児院出身のカイなら、双子が孤児院に引き取られるよう…なんとか口添えしてくれるかと期待した。必要なら賄賂も渡す所存だ。だが…カイから戻ってきた答えは、予想外な年齢制限オーバー。


「孤児院で暮らせるのは、十二歳までです」

「ええ…」


 十二歳超えたら追い出されるん? ハードモードじゃん。孤児院を出た子供はどうするん?


「日雇いや下働きをして、十四になると冒険者登録をする人が多い」

「え? 冒険者登録は、十四歳からなん?」

「はい」


 何それ!! 聞いてない。話を聞いた双子は、しょんぼりしてる。私の方がショックなんだけど!! 孤児院には擦りつけ出来ないし、冒険者登録もできない。詰んだか? いや…まだ手はある。


「カイ。十四歳なのは、どうやって証明するの?」

「俺の場合は、この町にずっといて…孤児院の時代を知ってる奴も多いから」


 マジカルな鑑定とかないんだね。結局は、自己申告なんだね。うん! 今日は、年齢詐称日和だね。全部の歯が見えるほどの笑顔を双子に向ける。


「「カエデの笑顔が怖い」」

「大丈夫だって、ちっとだけだから、うん、ちょっとだけ。ほら、今日から君たちは十四歳だから」


 双子も意図がわかったようで、素直に頷く。カイは、訝しげな顔をしていたが、事情を察したようで諦めの顔に変わる。

 さっ、ギルドに入ろう!

ギルドの扉を開ける…何これ重っ。手と足を使って開ける。


 ギギギと開いた扉。中に入るとジロリと冒険者たちに睨まれる。気にせず受付に進む。受付は二箇所あって、愛らしい女性とやる気がないのか? 机に顔を伏せているお兄さんがいた。女性の前には、十人ほどの男性冒険者が鼻の下を長くして並んでる。反して、お兄さんの方はゼロだ。お兄さんの受付に向かう。


「こんにちは」

「うぷっ。おーらっしゃい」


 あ、このお兄さん。昨日、料理の注文の仕方を教えてくれて…今朝まで、宿屋の食堂に転がってた人じゃん。酒臭い…


「冒険者登録がしたいんですけど! その前に魔法の練習場が使いたいんですけど!」

「あー。分かったから、大声出すのやめてくれ。頭に響く」

 

 

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