渦巻きのやつ

 驚愕した面持ちで、後ろに数歩下がるフェルナンドとゲオルド。あ…そうだよね。首を片付ける。


「なに首を懐に戻して、さも何もなかった顔をしているのだ。それは、魔道具か? 只者ではないと言うことか。良いから…もう一度、ここに首を出せ」


 クイーンの首を再び出して、石の台の上に置く。フェルナンドが、首と人相書を何度も交互に見ながらクイーンの首を調べる。


「断定には、冒険者ギルドの査定が必要だが…ほぼ、イルゼであろう。黒子の位置に瞳の色。特徴的な口が一致している」


 首を片付けて良いと言われたので、ギンに収納する。他の首もあるかと聞かれたので、賊首の首を出す。


「損傷が激しいが…人相書にはいない賊だな」

「賞金なしか~。残念です」

「コイツは知っている。ここ数週間、毎週ロワーに来ていた行商人だ。ガサツで商人とは思えなかったが、身分証があったからな。だが…確かリスト入りしていたと思う」


 ゲオルドが覚えていたようだ。揉めて暴れた経緯から、最近は、町に入るのには追加審査をつけられていたらしい。うーん。確かにカッとなりやすい奴だった気がする。賊の中でも、最初に殺したから…ギャーギャー言ってんのしか聞こえなかったけど…身分証は、盗んだ物だろうね。あ…


「一緒にいた人たちは、どこですか? 門で揉めていたみたいですけど」

「助けたと言っていた、拉致されていた人たちか? ゲオルド調べてこい。他にも証人が必要だ」


 ゲオルドが調べにいく間、フェルナンドと二人きりになる。沈黙が辛くて口笛を吹く。


「やめなさい」

「…はい」

「やはり、子供であろう。名前はなんという?」

「カエデです」


 名前が珍しいようで、東の国の者かと聞かれたので、適当に相槌を打った。『死の森から来ました』って言っても、どうせまた嘘だと思われるがオチ。

 『成人したばかりか?』と聞かれたので、活きのよい二十八歳と答えたら、頭が痛そうにしていた。嘘じゃないのに。


「身分証も持っていないなら、冒険者ではないな。生業は何だ? ここに来る以前は何をしていた?」

「会社員です」

「カイシャイン…それはなんだ?」


 会社員を説明したら、勝手に商人だという結論に至った。会社が懐かしい…みんな元気かな。


「そういえば、なぜ急に私の賊を殲滅した話を信じる事にしたんですか?」

「うむ…貴族の証言があったからだ」

「貴族の…あ! オスカー?」

「気安く愛称で呼ぶでない。オスカルゴ様だ。どこの家かは言えぬが、立派な公子様だ」


 カタツムリ…

 オスカーは、裕福な感じがしたもんね。今回は、オスカーが囚われていたこと、公子だということに関して一切口外するなと念を押された。私に言うのも、オスカーの許可があるからだと言われた。それ故に、賊に関しては、他に証言者がいるらしい。

 暫くして、ゲオルドが戻ってくる。どうやら、コリンは、本物の牢屋に入っているようだ。賊に使われていた身分証はコリンたちのだった。身分証の譲渡の容疑に、大量のお宝で盗賊だと思われたみたい。最悪じゃん。また檻に入れられている。


「ゲラルド、コリンたちを早く助けて上げて」

「何でお前が俺に指図してやがる。それに、俺の名前はゲオルドだ!」


 

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