証拠はあるよ

 ゲオルドと部屋に入ってきたのは、身なりの良い騎士風の中年の男性だ。大きい…二メートルくらいあるんじゃね。こちらを上から下まで見て口を開く。


「まだ、子供ではないか」

「子供じゃないです。成人女性です」

「…はぁ。そうか。フェルナンド・ロワー、壁の管理者だ。早速だが、質問がある。これを、どこで手に入れた?」


 ロワー。この町の名前だ。見せられた硬貨は、銀貨だと思って渡したお金だ。確かに持っている銀貨は黒くなっているのに、これは黒くなっていない。銀と言われて即座に出したのは失敗だった。これを、どこで手に入れたのか…白骨遺体と床下収納は、金貨や黒くなった銀貨に錆びた銅ばかりだったから…これは、賊のところで貰ったお金に混ざってたのかな? 色んな袋に入ってたのをまとめて一つの袋に入れたからなぁ。確かに、豪華な袋に一枚しかないのもあって『なんだ、一枚だけってハズレじゃん』のやつだったかもしれない。顔を上げフェルナンドを見る。もの凄い疑いの目だ。目力凄い。盗んだと思われてる?


「盗んでないですよ」

「では、どうやって手に入れた?」

「森の賊から貰い…頂き? 奪いました」


 フェルナンドに、賊を殲滅した経緯を説明する。細かい事は言わなかったが、ある程度事実を話した。フェルナンドだけではなく、ゲオルドまで訝しげにこちらを見る。


「一人で賊を殲滅したと言う事か?」

「ユキたちもいたけど…はい」

「嘘をつくでない!」

「えぇぇ…」


 完全に、可哀想な子を見る目で話を続けられる。フェルナンドは、意外と親切にこの白金貨について説明してくれた。これは、記念硬貨で王様から下賜かしされる硬貨らしい。フェルナンドの子供を宥めるような言葉使いが気になる…成人女性の話も嘘だと思われてそう。

 この硬貨は、なんとか伯爵から盗難被害の伝達と賊の討伐の命令が出てたらしい。移動中に馬車を賊に襲撃されたという事だったが…伯爵が被害にあった場所はロワーから遠く、まさかこんな所で見つかるとは思ってなかったそうだ。


「どうして、これが…その硬貨って分かるんですか?」

「ここだ」


 指を差した所には、ハインリヒニセイ17と書いてあった。相変わらず、片言のようにしか字は読めない。ハインリヒ2世?


「ハインリヒニセイさ…まが王様?」

「…知らぬ筈ないであろう?」


 知らない。つい最近まで森でボッチ生活送ってたんだよ。これは十七番目の記念硬貨だそうだ。

 今、気づいたけど…これ状況良くないよね…本物の牢屋に入れられるんじゃない? いやだ。カエデちゃんピンチじゃん。どうやって切り抜けようか…


 トントン——


 扉の近くにいたゲオルドが、ノックした人から何かを伝達され、フェルナンドに耳打ちをする。フェルナンドは驚いた表情でまじまじとこちらを見る。怖いって!


「賊を殲滅したと言うのは、事実なのか?」

「はい」

「このような子供が…」


 口に手を当て何かを考え込んだ思ったら、おもむろに懐から丸まった人相書を出す。手書きの人相書には、悪そうな顔がいっぱい描かれている。あ、クイーンだ。クイーンの顔の上に金貨五十の数字が見える。これ賞金だよね!?


「この人、賊の一人でした」

「これか? これは、盗賊団【首残しのウルフ】賊首マルクスの妹イルゼであるな。ロワーの近くにいたのか…マルクスはいたか?」


 首残しって何? 体だけ持っていくの? どう言う事? ううん。どうせ、碌なネーミングじゃないはず。聞くのはやめよう。

 マルクスの人相書を見るが、記憶のない顔。知らないと答える。


「イルゼは討伐されたのか? 証拠はあるか?」

「賞金が出ますか?」

「ああ。冒険者ギルドから金貨五十枚。それに伯爵からも、謝礼金が出る」

「じゃあ、あります」


 首はギンに預けている。流石に、首ふたつを持ち歩いてウロつくのは…やばい人だし。懐に手を入れて、クイーンの首を出す。


「なっ! 何処から首を出しておるのだ!?」



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