ホテル洞窟三日目

 ホテル洞窟三日目。元気よく起きる。クイーンの寝床は、結構快適だ。他の賊の寝床は目覚めと同時に香る男臭が辛かった。クイーン寝床は臭くないが、目覚め一発にSM道具が目に入る。爽やかな朝だ。


「カエデ~。おはよう」

「ギン、おはよう」


 ギンは、日々言葉を習っている。初めての『おはよう』頂きました。

 洞窟の外には既に人がいて、朝食の準備をしていた。朝の挨拶をして、ストレッチに筋トレをする。

 アリアの様子を見に行く。食事は出来るようになったね。


「アリア、助けてくれたカエデさんだよ」

「…ありがと——ヒィ。フェンリル」

「こら、うどん。上らないで」


 うどんが、アリアの匂いをクンクンと嗅いで戻ってきた。肩の傷は残りそうだが、熱も引き、傷口も埋まり始めている。これなら、移動しても問題ない。


「うん。大丈夫そうだね」

「あの…みんなは…」


 カイと視線を交わす。説明してないのかよ! はぁ…嫌な役目。苦手なんだけどなぁ、こう言うの。

 アリアに仲間の最期を伝える。厳密には発見した時には、既に亡くなっていたのだが…オブラートに包んだ話をした。アリアが泣き出したので、後はカイに任せる。

 アリアはどうやら、事件を所々ブロックしているようだ。無理矢理思い出す必要もないと思う。

 次に訪れたのは、オスカーのいる部屋。巡回検診かよ! ドクターカエデが参りましたよ! ナースカエデも悪くない。


「調子どう?」

「随分と良くなった。目は諦めていたが、潰れてはいなさそうだ。そのポーションはどこで手に入れた?」

 

 質問を無視して、目の治り具合を確認する。指を右左動かすと目で追ってくる。潰れてなくて良かったね。


「それは…なんだ?」


 オスカーが、ギンに気付く。

 ギン、いつもは髪に潜っているのに、珍しく髪から顔を出して手を振っている。可愛い。隠しているのもあるけど…ギン、存在感薄いんだよね…今まで、誰にも気づかれなかった。ヘアアクセサリーに見えなくもないけど…

 

「ギンだけど。オスカーは、立つ事って出来そう?」

「おい! 話を進めるな。『ギンだけど。』だけじゃ、なんの説明にもなってないだろ。めんどくさいって顔するな!」


 元気になったのは良いけど、職場の経理を思い出す。細かい事が重要なのはわかってるよ…でも、仕事以外も細かい人だった。『瀬戸さん、シュークリームを中身だけ食べるのやめてください』とか『瀬戸さん、屋上で踊るのやめてください』とか。太極拳だって!

 そう、そうこうやって眉を上げて詰め寄ってくるのもそっくり。


「オスカー、そんなに顔を近づけなくても、聞こえてるって」

「なら——」

「オスカーだって秘密あるよね? 本名とか、何でここにいたとか、何で拷問されていたかとか、切れ味の良い立派な剣とか、ゴニョゴニョの長さとか」

「ゴニョゴニョ…ぐっ。分かった。取り乱して申し訳ない」


 





 

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