延泊
「親指姫さん。スープが、顔にかかったんですけど…」
「姫!? 俺は男だ! なんだ、親指姫って!?」
「『好きに呼べ』キリッ。って言われたんで」
今、名前を教えれば、親指姫は撤回してやると言ったら、男はオスカーだと名乗った。始めから普通に名乗れぇ!
オスカーは、話す限り元気そう。問題は歩けるか…今のところ、座るのが精一杯で目もまだ腫れている。目は無事なのだろうか? 立ち上がるのは、まだ無理そう…これは、ホテル洞窟延泊コースかな。
「重ね重ね、済まないが…賊に奪われた俺の剣は、まだあるか?」
どんな剣か特徴を聞くと、長剣と短剣で鳥が装飾された物だと言う。確かにあったね。地味な装飾だけど、切れ味が良さそうなやつ。
「これですか?」
「何処から出したんだ…?」
「あ。秘密です。剣はこれですか?」
オスカーは訝しげに剣を受け取り、感謝の礼をした。他に何か奪われた物があるかと確認したら、服や防具に靴。いや、全部やん。
「下着も?」
「いや、下着は履いている」
そっち系の趣味のある賊じゃなくて良かったね、オスカー。
オスカーから聞いていた特徴の服を集め渡す。全部はなかったが、ある程度はまだ残っていた。結構上質な服。裕福な人なのかな? 聞いても教えてくれなさそなので、深くは聞かない。
「コリン。親指の人、オスカーって言うんだけど、今日の移動は無理だね。他の人は移動できそう?」
「ここから街まで、数時間だが…ちと、こっちもすぐの出発は厳しい…」
ホテル洞窟延泊決定。
アリアの方も、まだ放心状態。大丈夫かな?
食べ物は、余裕で数週間分貯蓄されている。滞在しても何も問題はない。
洞窟に滞在している人を全員集める。双子のミラとミロが、声掛けをを担当してくれた。何処かの麦芽飲料が飲みたくなるような名前だ。この世界にココアがあるといいなぁ。
「みんな、集まりました」
「ありがとう!」
集まった人たちの顔を見る。良かった。昨日とは違い、目に生気が戻っている。一部は、まだどんよりしてるけど…
現在の状況を正直に伝える。本当だったら今すぐにでも出発したいが、怪我人を考慮して数日ここに留まる事。食べ物は十分にある事。出発までには、其々で準備をする事。賊の残りのお宝や武器は、持てる範囲で持って行くこと。
「もし、数日も待てないって方がいたら、先に出発しても構いません。自己責任でお願いします! 質問はありますか? はい、そこの手を挙げた貴女」
「戦利品は、賊を倒した者に所有権がありますが…」
「あー。私は、もう先に頂きました。これ以上持てないので、好きに貰ってください。でも…そうですね…明らかに遺品や誰かの名前が彫ってあれば報告よろしく。それじゃ解散です。トレジャーハント頑張ってください」
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