晩酌の先
「く、首? あぁ…賞金か…全員のか?」
「え? クイーンのだけかな」
「クイーン…女賊首のか。他のは埋めるか燃やすのか? 出来れば、子供がこっちに来る前に首は切ってくれるか?」
子供に首切りショーを見せる予定はないので、クイーンの装備やらアクセサリー類を剥ぎ取り、サッサと首を切る。この一連の手際の良さがアップしてる…どこに向かってるのやら…
石の魔石で土を吸収して穴を開ける。コリンは、詠唱も短く上位の土魔法使いだと勝手に勘違いしたようだ。正すのも面倒だし、それでいいや。詠唱は『土ほりほり』で、カイは目を逸らしながら黙っている。
コリンとカイに手伝ってもらい、賊の死体を穴に埋める。墓に手を合わせる。
「カエデさんは、東の出身か?」
「日本という国ですが…」
「聞いた事ないな。東の方は、カエデさんのように小柄で黒髪が多く、手を合わせて死者の祈りをすると聞いたからな。勇者キヨシも東の出だ」
「勇者キヨシ…」
絶対日本人だろ。勇者キヨシは、昔の人物で年齢を考えれば、既に亡くなっている。他にも…もしかしたら、この異世界に飛ばされた人がいるかもしれない。少し気持ちが楽になる。この世界に一人ぼっちではないかもしれないと言う安心だ。
夕食を全員揃って食べる。久しぶりの温かい食事に安心感で涙する者もいた。
「カエデ、アリアの意識が戻った」
「そう…ケアしてあげてね」
カイはお人好しだが、アリアの精神状態は悪そうだ。自分の仲間が、切り刻まれるのを見たんだ。あの現場は、キツかった。今は、誰かが側にいた方がいい。カイを置いて逃げたのには、不満があるが…まだ滞在時間少ないこの世界で分かるのは、弱肉強食でシビアって事。みんな、結局は自分が一番可愛い。
夕食後は、殆どの人が泥のように寝た。ギンに玉を与える。
「カエデ~。コケも」
「ギンちゃん、コケも欲しいの?」
玉に苔をまぶす。ふりかけみたいだ。ギンがその上に根を生やす。ほっこりする。
私もユキとうどんに包まれて目を瞑る。静かなこの時間が、今日…人を殺した事を実感させる。
賊の死に際の顔が脳裏に浮かぶ。こちらを責めるような目、驚いた表情に恐怖の顔。返り血や地面に流れる血。嗅覚を刺激する匂い。
「はぁ…寝れない」
バックパックから、高級スコッチを出してテーブルに座りコップに注ぐ。ゴクリと大きな一口を飲む。カッと喉が熱くなる。
「カエデも寝れないのか?」
「ん。カイも?」
「ああ」
少しの沈黙後、カイがテーブルに座る。コップを出して飲み物を注いであげる。
「酒か?」
「未成年に堂々と酒を出すわけないでしょ…メープルシロップです」
「甘っっ」
匂いを嗅いで、メープルシロップを一口飲んだカイは、予想外の甘さに驚いている。
「無理して飲まなくていいよ」
「美味いです」
「そう?」
カイも人を初めて殺めた事に罪悪感を抱えていた。お互いの同じ感情なのか。そう思うと、いつの間にか今日のストレスフルな気持ちは消えていた。
最終的に会話は、談笑に変わった。ある程度話したら、ウトウトし始めユキにダイブした。
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