宇治金時
「扉から離れて!」
檻の鉄格子についていた、錆びた鎖と南京錠をスパキラ剣で破壊する。壁に縛り付けられていた枷を壊して中の人を自由にする。
カイが檻の中に駆け寄って、アリアを抱き起す。右肩を剣で刺されて放置されていたのか、傷口が化膿し始めて熱を帯びている。アリアの意識も朦朧としている。
他の檻も同様に破壊しする。
見渡せば、囚われていた者たちは衰弱している者も何人かいる。特に男性は怪我が多い。他も精神的なショックからか…檻から動かない人が多い。囚われて日の浅いだろう人たちは期待と安堵の眼差しだ。
「皆さーん! 疑問も多いでしょうが、とりあえず賊はもういません。檻から出てくださーい! 質問とかあるでしょうが、今は怪我の酷い人を優先的に治療します」
治療は、アリアとあの足を怪我した男性が先だ。他は、見た感じ軽症だね。足を怪我した男性は顔色悪く、両足の甲を杭で刺されている。意識もない。一人だけ別の檻に入れられてたのは、死ぬと思って隔離していたのかな?
「カイ。アリアは任せたね。はいこれ、水…ポーション」
「ありがとうございます!」
治療優先の男性の服を剥ぐ。全身に打撲痕があり、顔も腫れ目も片方潰れているように見える。金髪に髭ってのは分かるけど、それ以上は識別が難しい。
男性の足の親指は黒っぽくなっていて蛆が湧いている。蛆は確か死んだ腐肉を食べるんだっけ? 蛆虫のマゴットセラピーと言うのがあると言う話を、以前父親が夕食中に話題に出し、家族にブーイングを食らったのを思い出した。
それなら親指は、もう壊死している。不思議水をかけるが、何も起こらない。その部分は、死んでいる。それなら…選択肢は一つだね。切り落とそう!
「悪いんだけど、誰か手伝ってくれる?」
「じゃあ、俺が…」
「別の人で! 貴方も腕、それ折れてんじゃない? これ飲んで大人しくしてて」
次に名乗り出てくれたのは、未だ意識のないエディの側にいた女性だ。エディの姉のようだ。エディより随分と年上に見える。
「「私たちも手伝います」」
男女、同じ顔の双子の少年少女だ。確かにエディの姉だけでは、男性が暴れたら抑えれないかも…
金髪男性の足全体を不思議水で洗う。やっぱり、壊死してる部分は治らない。まだ生きている部分は再生しているのに、死んだ部分は何も起こらない…不思議な光景。
「ここからここを切ります。動かないように抑えててください」
ゆっくりと慎重に親指を切る場所を選ぶ。抑えてる三人には、使おうとしているスパキラ剣が、錆びた剣にしか見えないのだろう。不安な表情で、お互い視線を交わしている。
「いくよ」
刃を入れた瞬間、男が暴れ出す。四人では抑え切れないほどの力だ。バタバタと暴れる手足を抑える。先程の腕の折れている男性が、折れてない方の腕で加勢してくれる。
「助かります」
「こっちは折れてないからな。だが、早くしないと持たないぞ」
急いで残りの親指部分を切り落とす。
ふぅ。終わった。怪我の部分に不思議水をかけ布を巻く。
歯を食いしばる男の口を、棒でこじ開け、不思議水を少しずつ口内に流す。痛さで意識が戻ったのか、潰れていない方の目で睨まれる。
「痛かったですよね。み…ポーションです。飲めますか?」
こちらを睨みながら、ゴクゴクと不思議水を飲む金髪男は、不思議水を飲み終わるとまたすぐに意識を失った。
緑の苔が生えた地面に落ちた、切り落とされた赤黒い親指に群がる蛆を眺めながら呟く。
「宇治金時食べたいなぁ」
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