シャーッ

 エディが言うには、賊の住処には、獲物をハンティングする部隊…私が全滅させた奴らと、住処の待機隊がいるらしい。雑用などは、誘拐した人を無理やり働かしていると言う事だ。

 住処の待機隊は約十人…多く見積もって十五人。誘拐され囚われている人は別々の箇所にいて、ちゃんとした人数が分からないが…五人以上。


「一旦、街に行って、助けを呼ぶのじゃダメなの?」


 カイが、渋い顔をしている。

 街までは、走っても数時間…それから事情を話し、討伐隊を編成しても…ここまで戻って来られるのは、早くても丸一日は掛かる。こちらの世界の事情もよく分からない余所者に駆け出しの荷物持ち…それからボロボロの子供…冒険者ギルドや街の人から見たら、絶対胡散臭い。賊首の生首や冒険者タグはあるけど…これが、実際賞金首かも分からない。

 

 考える。


 ノー。ダメ。助けに行くのは、やっぱりリスクが高く危険過ぎる。


「カイ、エディ。死にに行く様な物だよ。私は、行かないから」

「分かっています。でも、俺は行きます」

「…はぁ。分かった。武器を幾つかあげるから、持っていって。でも、生首は私のだから」

「ありがとうございます。な、生首はいりません」


 武器や防具を渡し、カイとエディと別れる。

 街に向かい森を進む。会話する人が居なくなると、自分の歩く音が耳につき、森の静けさを一段と感じる。


「カエデ~」


 ギンに、顔を撫でられる。慰めてくれてるのかな? ありがとう、ギン。



 一時間以上歩いたか…足取りは重い。ベストな選択をしたはずなのに、気持ちが悶々とする。

 賊の死に顔にカイの顔が重なる。

 足を止め、その場にうずくまる。


「ユキちゃーん。どうしよう?」


 ユキを見上げても『そんなの知らないわよ』と言われているようだ。

 うどんの腹に顔を埋める。


 …くさっ


 賊って言えば、お宝だよね。お宝…何かを理由にして、カイたちの所へ行こうとしている時点で心は決まっている。

 なってやろうじゃないか! ファイティグウーマンカエデに!


「シャー!! シャーッ!!」


 拳を高々に何故か猫の威嚇する音を立てる。自分でもよく分からない。


 よし! 気持ちは決まったので、急いで戻ろう。土の魔石も満タンにして、来た道を戻る。カイたちの進んだ方角と賊たちの出てきた方角を考え、向かう場所の目安をつける。


「ヴュー」


 え? 何? ユキ、背中に乗せてくれるの? ユキは、以前と比べたら随分と大きくなっているけど…流石に無理じゃない?


「ヴュー」


 早くしろとユキに急かされる。生首どうしよう?

 ギンが髪の中から胸元に移動しながら、生首を勝手に収納する。


「カエデ~。ここ」


 胸からちょこんと顔を出したギンが、ユキの背中を指さす。

 ユキのモフっとした体に触れ乗ったのだが…何か想像とは違う。乗ったと言うよりも、しがみついたと言う方が正解である。


「ユキちゃん。やっぱり走っ——」


 急発進したユキは、猛スピードで森の獣道を駆ける。


 ペシペシ

 バシバシ

 べチン


 痛い痛い痛い。木の枝やらが顔と体にバシバシ当たる。辺りの風景もスピードの速さで見えない。

 必死にしがみついて、ユキの背中に顔を埋める。早く着いてくれと祈りながら…

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