賊 2

 カイと共に森を走る。きっと、足跡や枝の折れなどでトラッキングされてしまう…今はそれよりも遠くに向かう事に集中する。

 走る事十数分。岩の崖が見え始める。


「カイ。あの崖に登るよ」


 崖の手前で、石の魔石で大量の落とし穴を掘る。ここの土はやけに黒っぽい色だ。急いでいるので、以前の落とし穴の罠のようには作れず、バレバレかもしれないが、足場全てに穴を無数に空けて行く。これだったら崖まで来るのに時間がかかるだろう。おかげで石の魔石も満タンになった。

 崖を見上げる。ツルツル絶壁ではないので、なんとか登れそうだけど…ここに飛ばされる少し前に人気があるからとボルダリングをした事があった…それは五メートルくらいの壁で落ちてもマットがあった。ここは落ちたらthe地面。

 この崖の高さは二十メートルくらい? フリークライミングだ。

 

「あ! ユキ達がいたんだ!」

「カエデ、フェンリルならもう登り始めている」


 見上げると、崖の足場が無さそうな所にユキが立っていて、うどんもスイスイ上に上がっている。

 いや…お前らアルプスのヤギかよ…


「カイ。大丈夫そう?」

「は、はい」

「じゃあ、先行くよ」


 崖を登り始める。十メートル地点までは問題なく上がる。ユキ達は既に頂点にいてこちらを見下ろしている。カイもついて来ている。

 ここからは、足場が少なくなるが…石の魔石を握り杭をイメージして、岩の割れ目に杭を打つ。出てきた杭は石よりも鉄っぽい。確認の為にペグハンマーで杭を叩くとキーンと甲高い音がしたので、ちゃんと入ってるよね?

 杭を足場にどんどん登る。カイは大丈夫かと下を見て後悔する。思ったより高いんだけど! 足がすくんで、プルプルする。


「カエデ~。ナデナデ」


 ギンが顔を撫でる。私が落ちたらギンも落ちてしまう。すくんでた足を叩き、再び上に向かう。

 やっとでユキ達のいる頂点にたどり着く。カイも続けて登ってくる。疲れた。


 崖の下からは、『なんだ、これは!?』と声がする。静かに身体を地面に伏して、匍匐前進ほふくぜんしんして崖の上から敵を観察する。


 見える敵は数人、無数に掘った穴の前で立ち往生している大きな体の男達だ。後ろからも声が聞こえるので、十人から十五人はいると思ったほうがいいかもしれない。このまま諦めてどこかに行って欲しいが…


「お前ら獲物は女か子供の二人だ! 必ず見つけだせ! 仲間を殺した奴は八つ裂きだ!」

「「「「「おう!!」」」」」


 どうやら、諦めてはくれない感じだ。ガハハと汚い笑い声を上げ、誰が最初に私たちを仕留めるかで賭け事をし始めた賊にイラッとする。なんで、こいつらに追いかけ回されないといけないん? 巨大イカや魔物を数々見て来たからか? 賊は怖くない。今は、これまでの理不尽な環境に耐えて来たのに…賊の遊戯の対象に使われている事が胸糞悪い。私の方も、もう気持ちを定めないと。


 殺す。賊。


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