賊
「はい、もっと飲んで」
「いや、もう俺、水いらないです。水でお腹いっぱいです」
小休憩の度にカイに水分補給させていたら、遂に断られた。これだけ飲めば、大丈夫だよね?
カイのもう一つの魔法、ウインドブラストも見せてもらった。強い突風が十五秒ほど出る。瞬間で風速三十メートルはありそうな勢いだ。面白がったうどんが、カイの出した風を噛もうと逆らいながら歩いて、滑って転がったくらい威力ある魔法だ。
楽しそうに目をキラキラさせたうどんが戻ってくる。
「キャウウン」
「もう、終わりです」
ゼェゼェとカイが肩を揺らし息をする。
ウインドブラストは、魔力を使うのでそう頻繁には出せないとの事。『今日は、出せてあと一回です』と言われた。
進む事、小一時間。兎を発見。的は小さいけど、ここからなら…石の弾丸を放つ。
パァン
うさちゃんゲット!
「カエデは、土魔法使いなんですね。すごい命中率。あれ、でも詠唱は…?」
「…あの詠唱って必要なの? えーと、風の力よ…なんちゃら」
「なんちゃら…詠唱なしで魔法を放った人を初めて見ました」
魔法じゃないから。でも、他が詠唱を唱えるのが普通なら…うっ。でも…あの恥ずかしい詠唱を? とりあえず何か言ってから次回は攻撃した方が良さそう。
時間は…14時か。そろそろ野営場所を探したい。明日には街に着く。テントは快適だけど、いい加減ベッドで寝たい。
「ヴゥー」
ユキが小さく唸る。うん。わかってるよユキちゃん。
一年近く、一人森で暮らしてきたからか、視線と殺気には敏感になっていた。誰かがこちらを見てる、それは分かる…どこから見られているかまでは分からないが…ユキは把握しているようだ。
普通の冒険者を知らないが…殺気を出したり、影から盗み見とか碌な奴じゃない。
「ユキちゃん。敵だね。出来れば生捕りだけど、無理ならやっちゃっていいから」
小声でユキにお願いすると、彼女がニヤリと笑ったような気がした。物騒な顔だけど、頼りにしてるよ。
「カイ、敵だよ」
「え!?」
「あ、こら。シー」
声を抑えて伝えたのに、カイが大きな声を出した事で敵に気づかれたかも知れない。
遠くの木の枝がガサっと揺れ、軽装な女の姿が見えた。ちっ。バレたか。
「ユキちゃん!!」
女はユキが急に走り出し向かってくるのに驚き、
逃げたのは良いが、猛スピードで走るユキには敵わず、『ギャアアア』と言う声が森に響き渡る。
生捕りできたかな…また死体とご対面は…嫌だな。
ユキの向かった方に進む。ヒューパンと花火のような物が空に上がる。
「カイ。アレ何?」
「仲間を呼んでます!」
くそっ!!
ユキの元にたどり着くと、女はユキの氷柱攻撃を受け瀕死だ。
「なんで、私たちの後をついてきてたの?」
「フッ。ガキ二匹にこの様か。フェンリル使いなんてズルだよ」
「ジェイク達を殺したのもお前か!?」
「あいつらの仲間か。道理で人数少ないパーティだと思った。クッ。ゴホッゴホッ。殺すなら殺せ。もうすぐ仲間が来る。お前たちもすぐ死ぬ」
うーん。別に殺したくはない。女が腰に手を回したと思ったら、ユキちゃんの氷柱が飛んできて女の首元に刺さる。口から血を吹き出し、女は上を向き、目を見開いたまま事切れる。
思ったより冷静な自分に驚く。カエデ大パニックとかはない。数分だろうか…未だに血が口から滴る女の死体を無言でカイと眺める。
「カエデ~」
ギンの声でハッと我に返る。そうだ。仲間の賊が来るんだ。
急いで女を調べる。手を伸ばしていた腰には、ベルト状の鞘の中に暗器が仕込まれていた。首には、冒険者タグの首飾りが付いてる。血のついたタグを首から引きちぎる。足元に仕込んだ暗器も頂戴する。
女の瞼を手の平で下ろして、手を合わせる。
遠くから、花火の信号が上がるのが見える。
「カイ。行こう」
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