死の森

 パチパチと音の鳴る火を見つめながら、椅子に座る。ユキとうどんは丸まって寝ている。

 練習以外での初めての野営。

 緊張して寝れないんじゃないかと不安だったけど、余裕で安眠。

 

「おはよう」


 朝の5時。

 トリップワイヤーアラームにも何も引っ掛からなかったので、機材を回収する。

 朝ごはんに干し肉を噛む。

 テントを片付け、ギンに収納。トイレの為に掘っていた穴も埋める。


 出発。


 不思議水のおかげか、体力はみなぎっている。昨日も長距離歩いたが、疲れは感じない。良かった。足痛とかで動けなくなったら大変だった。


 るんるん遠足気分で道を進む。



▲▲▲▲▲▲


 ひたすら数日、南に森を歩いた。

 コボルトのテリトリーが広いのか…ここ数日、出会う魔物はコボルトばかりだった。ベニが言ってた様に、ここは別に死の森ではなく、ちょっと魔物が多いだけの森なのではないかと思い始めた頃に出会った。


「なに?この木についた粘り…」


 まるで大きなナメクジが這った跡かのようなキラキラした粘りが、木だけでなく、地面にもついていた。心なしか粘りが付いている森は所々腐食しているように見える。

 まさか…ジャイアントなナメクジじゃないよね?


 ボトッ


 上から落ちてきたのは、無色透明のアメーバのような物体。あ…これスライムだ。スライムの中には、同化して見え難いけど、薄い水色の核がある。

 スライムって言えば、雑魚キャラで有名だけど…ユキが警戒しているので、距離を取る。


 ポコポコと気泡が出て、やがて水風船の様に膨らんだと思ったら、パンっと割れた。破れたのはいいが、あちこちに飛んだ液が触れた箇所から煙が上がる。

 あれは…酸的な何かの危険な液だよ。

 塩素のような臭いと刺激臭がする。

 こんな無差別な爆発とかテロ並みに怖い。スライムが超速再生して行く。

 くっ。また膨らんで酸を撒き散らすかと思って、遠くから様子見したが…どうやら一度爆発したら、すぐにまた爆発は出来ないらしい。

 石の弾丸で攻撃するが、なかなか核に当たらない。仕方ないので、近づいて風の刃を喰らわせる。

 核に刃が当たり、スライムはドロっと溶けて無くなった。割れて残った核を木の棒で突く。触っても大丈夫そうだが…一応、スライムの核を水洗いをする。水に触れた核は溶け、中から一円玉程の大きさの紫の魔石が出てきた。おお。紫。

 触るのは…危なそうなので手袋をはめて回収する。

 道を進む。段々と何故ここが死の森と言われる様になったのか理解できた。きっとここはスライムの領域なのだろう。あちこち腐敗しいて、出てくるのは、テロリストのスライムだけ。他に生き物がいなさそうだ。これじゃあフレッシュなお肉も見つける事が出来ない…

 地図を確認する。うーん。回り道をするにも、東は地図の黒塗りされた部分に行き着くから却下。西は…この崖みたいな絵が気になる。しかもその手前には、バツ印付いている。字の所には穴が空いていて読めないが、何かの巣だろう。

 この地図の元の持ち主も、結局はこのスライムテロリストゾーンのルートを通ったと思う。


 スライムゾーンを五日歩く。夜中にも出てくるのでテントが張れず、寝ることもままならなかった。

 カエデのストレスゲージはマックス。

 出てきたスライムを倒し続け、魔石を回収する。これで紫の魔石は四十五個目。


「あ~。やっとでスライムゾーン突破」


 遂にスライムの腐敗がない森へと抜けた。喜びのあまり、地面に生えている草の上でゴロゴロする。ユキの視線が気になるけど、今はほっといて欲しい。

 ユキとうどんが走り出す。どうやら餌を見つけたみたいだ。ユキたちも五日間は少量の干し肉しか食べれなかったのだ。

 ログハウスを出てから十日目…フレッシュなお肉…


「きゃあああ」

「なんでこんな所にフェンリルがいるんだよ! 逃げろ!」


 え? 人がいるの?

 まさかユキちゃん、人を食べようとしてないよね? 急いで声の方に走る。

 遂に人の姿が見える。武装した五人だ。剣士っぽいのが二人に、魔法使いの少女? それからシスターのコスプレ? ハロインのちょっとエッチな格好をしたシスターがいる。後ろには、大きな荷物を持った少年。 顔は全員、少年少女だけど…身長も体も大きいな。どうやって声かけようかな? 咳払いをして、あーあーと声を出す練習をする。


「おい! カイ! 役に立たないんだから、お前が囮になれよ!」


 荷物持ちの少年の脚が剣士に斬られ、顔を殴られる。地面に倒れた少年を放置して、他の少年少女は逃げ出した。


 えーと…どうすればいいのかな…


 

 

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