カイ

 どうしようか迷っていても仕方ない。急いでうずくまっている少年の元に駆け寄る。

 少年少女の姿は既に見えなくなっていた。ほっておこう。


「大丈夫?」

「え? あ…はい。あっ! フェンリル」


 良かった…言葉はちゃんと通じる。

 一年振りの人。道のり長かったなぁ。

 うどんが少年の上に乗って顔をペロペロする。何かの動物を食べたの? 口周りは血だらけだ。少年の顔にも血が付く。

 うどんを少年から引き離して、顔の血を拭う少年をよそに、怪我した脚の箇所を確認する。


「そんなに深い傷じゃなさそうだね。でも、破傷風とかあるから、そうだ! 水で洗うから痛かったら言ってね」

「あ…あれ? 痛くない。傷が治っていく。ポーション? こんな傷にポーション使っても大丈夫なのか?」


 ん? ポーション?

 不思議水だけど…ポーションって薬草とかだよね? 

 うどんが棒を持ってきて、頭をスリスリしてくる。うどんよ…今、棒投げ遊びを要求するの?


「ポーションじゃないけど、傷が治りやすい水だよ」

「そ、そうなのか。助かる。代金はちゃんと払う」

「お金は別に要らないけど…」

「あの…その二匹は…フェンリル? 従魔使いの冒険者なのか?」

「この子達は、ユキとうどん。家族…だね。それに、冒険者ではないけど…それより、さっきのは何なん? 友達じゃあないよね?」


 話を聞くと、このカイと言う少年は冒険者の荷物持ちをしていて、さっきの少年たちには雇われていたらしい。

 前髪が目にかかってカイの表情はよく見えないが、悔しそうに唇を噛んでいる。


「なんていうか…不運だったね。私の名前はカエデだから、よろしくね。カイはどこから来たの?」


 地図を広げる。カイは、ここから二日以内にあるロワーの街から来たらしい。ロワーは地図にはないが、私の目指していたガーザの街から三日程離れた森に一番近い街と言う事だ。


「これは、かなり古い地図。ロワーの街が載ってないし、ここは…四十年前の戦争で消えた街だ」


 やっぱり古い地図か。

 でも、いい情報を入手した。後二日以内で街。気持ちが一気に高まる。


「さっきの代金の話だけど、ロワーの街まで案内してくれない?」

「そんなのでいいのか? 俺も一人で帰れないので、助かるが…」

「じゃあ、決まりだね」


 グーキュルルル


 ああ…腹の虫が限界だ。

 ユキが目の前に大きい鳥の動物を持ってくる。お裾分け? まるまると肥えて美味しそうだ。

 ユキちゃん!! 流石!


 グーキュルルル


 カイの腹の虫も鳴る。

 こんな状況でもお腹は正直だ。


「一緒に食べようか?」

「え? いいのか?」

「結構大きな鳥だし、お腹空いてるでしょ?」

「ターキーが食べれるなんて…本当にいいのか?」


 これ七面鳥なの? 前に写真で見たのと感じが違うけど…まぁいいっか! 早く食べよう。


「ギン。道具出して」

「え? どこから荷物が…魔道具か?」


 あー。ターキーに必死で忘れていたけど、こう言うのは隠した方が良いのかな…もうバレたし今更だけどね。ギンの事は内緒にしておこう。見つかって、誰かに誘拐されたら嫌だし。


「そうそう。魔道具」


 ターキーの血抜きをして羽を毟る。この作業久しぶり。

 丸焼きにしたい気持ちはあるが、何時間かかんだよって話なので、ぶつ切りにして焼く。素焼きか…


「塩ならあるが、あとぺぺの実も」

「おー! 塩いいね。ぺぺの実って何?」


 ペペの実は、辛いが肉に合うと言う事で、粉にしたのを少し口に含んでみる。

 か、辛い。涙が出そうなくらい辛い。とりあえず不思議水を飲むが、早く何か食べたい。肉をさっさと焼こう。

 

 ジュージュー


 ああ…肉の焼ける音がこんなに素晴らしいなんて、これが幸せの音ってやつだね。

 肉が焼けたので、早速齧かぶり付く。ジューシーな肉最高! ペペの実も肉にほんのちょっとまぶすだけで、良い味になる。

 カイも満足そうに食べている。


「あーもう食べれない。残りのお肉は私が収納しておくね。今日はもう野営できるところを探して…明日出発したいんだけど、いい?」

「はい…」


 肉を食べて元気になったけど、カイの方は身体を休ませる時間がいると判断した。服はボロボロな上に顔には青あざ。それに、正直…仲間に斬られて置いていかれるとか…私だったら、そんな状況で休みもなく歩くのは辛すぎる。一日ふて寝コースだ。

 それにカイの抱えている荷物の量よ。それで、走れんの?


「ねぇカイ。その抱えている荷物って何が入ってるの?」

「『輝く太陽のつるぎ』の私物や…野営の物とか、道具とか…」

「それってチーム名か何か?」

「え? はい。パーティの名前です」


 耀く太陽の剣って…ダサっ。厨二病全開なネーミングセンス。少年少女だもんね。実際中学生くらいの年齢なんだろうな。

 荷物、少しならギンにも収納してもらえるかな? ギンを見ると『だえ~』と言っているので大丈夫そうだ。


「もう、彼らの荷物を持ってあげる義理ないんじゃない?」

「…そうだけど…荷物を無くすと罰金があるから…」

「仲間を置いていった罰金とかないの?」

「あるけど…多分、俺の所為にされる。荷物持ちは下っ端扱いだから、ギルドでもパーティの意見の方が重視される」


 うーん。そうなのか。色々とめんどくさそうだ。とりあえずカイに荷物を分けてもらう。

 


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