出立と森

「じゃあ、ベニも元気でね。また会おう!」

(待たんかい! 我のキノコを持ってゆけ)

「丁重にお断りしますって」

(…ギンよ。これをしまうだえ)

「あ、コラ。なに勝手にギンに押し付けてるの!」


 五つの鮮やかな緑のキノコは、スッと消えギンに収納された。マジで要らないんだけど…


(必要な時にギンが使うだえ。餞別だえ)

「そう…じゃあ…頂くね。因みにあれは何のキノコなの?」

(窮地の時に使うだえ)

「ベニ…何をするキノコなのかな?」

(カエデを守るキノコだえ)


 結界的な?

 結界は力を使うって言ってたから、それなら緑のキノコは相当希少な物なんじゃない? 貰っていいのかな? 貰っておいて損はないよね…ないよね?


「分かった。ありがとう、ベニ。じゃあ、本当に行くね。ベニもゴキちゃんズも元気でね」

(カエデもな。ギンをよろしく頼むぞえ。フェンリル親子も達者でな)


 ベニが僅かに光ったと思ったら、ログハウスとベニたちが徐々に薄くなっていく。これが隠匿の魔法? 凄い。ベニがゴキちゃんズの上から手を振り、ゴキちゃんズの触覚も揺れている。

 

 バイバイ。


 ベニたちが完全に消え見えなくなった。次回戻ってきた時の為に、側にある木に印を彫る。


 ギンの収納は、ドラム缶風呂は入れる事出来なかったが、その後、細かい物を結構入れることができた。サバイバル本や何かに使うかもしれないと思った物は大体収納できた。小さい物ならまだ入りそうだが、大きい物はフルフル却下された。


「ユキ、うどん、ギン。出発するよ。安全第一だからね」



▲▲▲▲▲▲


 出発から小一時間、湖に到着した。

 イカの死骸が消えていたので、他の動物に食われたのかな? 

 湖には、色んな生物が水を求め集まっている。以前は、イカの所為で寄り付けなかったんだろう。ユキちゃん達も湖の水で喉を潤している。

 双眼鏡で辺りを見渡す。鹿のような生物に…あれは虎か? 遠くて良かった。湖の上にも、デカいアメンボみたいな何かがいる。関わりたくない。

 水の魔石に湖の水を補充する。現在、水の魔石は三つある。死骸から拾ったネックレス型が一番容量が少なく、次に床下収納にあった魔石、一番容量が多いイカの魔石。暫く湖には来ることができない。イカの魔石は使用しても全く減ってない感じがするが…出来るだけ節約しよう。


「キーキキーキー」


 ん? 猿か。やっぱり大きい。

 遠くから離れてこちらを警戒している。猿と戦った事はないけど、数が多いから面倒な相手だ。

 ユキちゃん達がいるからか? あちらは一定の距離からこちらには来ない。一際大きい猿が雄叫びを上げると、猿達は一斉に何かを投げてくる。


 ベチョベチャ


 足元に落ちたのは、茶色の物体。あ? これ…うんこじゃん!

 こんなの当たったら最悪じゃん。ふざけるなよ! 

 早速、ベニの結界使いたいんだけど…ギンは無反応だ。


「ユキ、うどん。逃げるよ!」


 南に向かい森を走る。

 はぁはぁ。

 ここまで来たら、猿どもも追いかけてこないだろう。うどんを見ると、狙われたのだろうか、色んなところに猿の糞が付いている。


「クゥーン」


 恩を仇で返された気分だ。猿どもめ…

 うどんを水洗いする。


 変な時間を食ったが、腕時計のコンパスを確認して南に進む。既に一度も来た事のないエリアに入った。ここから先は気を張らなければならない。


 二時間ほど歩いたところで、コボルトの集団に会う。


「ヴュー」

「キャンキャン」


 ユキの牽制でこちらには来ないが、キャンキャンと鳴きながら後をついて来てうるさい。これでは、変なのを引きつけてしまう。


「ユキ。コボルト始末するよ」


 ユキの氷柱がコボルト集団の半分ほどを貫く。パワーアップした? 逃げ出した数匹を追いかけスパキラ剣で斬る。

 ああ。一匹逃したか? いや、この距離ならまだいけるかも。狙いを定め石の弾丸を撃つ。逃げていたコボルトの太腿に命中する。早足でコボルトに近付き、苦痛から解放してあげる。一匹でも逃すと仲間を呼ぶのだから仕方ない。


 森の景色は似たり寄ったりで、コンパスが無ければ確実に迷っていたと思う。

 時計を見ると、14時だ。そろそろ野営地の場所を探したい。

 野営できる所を詮索しながら、更に数十分歩く。辺りはまだ楓の木が多いが、今までにない大きな木が生い茂る場所に到着する。これも楓の木だろうか? 太く幹の分かれた木は、五つに切れた大きな葉で生い茂っている。確かに楓の木の葉っぱっぽいけど…私の手の平より大きな葉っぱだ。記念に幾つか持っていこう。

 木の周りを確認する。他の木も所々生えていて、足跡や糞はない。動物や魔物の巣は近くにはなさそうだ。夜中に急に逃げ出さないといけない場合でも、この位置なら大丈夫だろう。安全そうではある。よしここにしよう。


「ギン。大きいバックパック出して」

「だえ~」


 ドームシェル型のソロ用ベッドテントを張る。使用感はそこまでない…だって使うの四回目くらいだし…

 テントを貼り終えたら、手作りのトリップワイヤーアラームも仕掛ける。使用するのは、ワイヤー、空の鯖缶と焼き鳥缶、それから木の棒だ。缶を幹の間にぶら下げる。その下に缶に当たるよう棒を巻いて仕掛ける。トリガーとなる棒に、木と木の間に引いた境界線のワイヤーを結ぶ。木の間のワイヤーは、地面に近い位置に張る。

 出来た…

 サバイバル本を参考にしたが…ローテク過ぎて不安になる。試しにアラームを使ってみる。

 ワイヤーに足が引っかかった瞬間、トリガーが取れ、棒が回りぶら下げていた缶を数回叩く。


 カランカラン


 仕掛けは大丈夫そうだ。

 缶のアラームとは反対方向にペットボトルに小石を入れた同じ仕掛けを作る。


 時刻は、17時を過ぎた。辺りはすっかり暗くなっている。焚火台に炭を入れお湯を沸かす。食べ物は干し肉だ。明日は、フレッシュなお肉が食べたいな。

 

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