別れと出立
瞼が重い…二日酔いの気分だ。
何度か瞬きをする。視界に映るのは…ユキの足か。
「ユキちゃんおはよう」
ユキに見下ろされて目が覚める。口元を手で拭うとカサつく。あぁヨダレの跡か。
不恰好な体制で寝たのか身体が痛い。パキパキと骨を鳴らしながら起き上がる。外はまだ明るい。
(目覚めたかえ?)
「毒キノコ…」
(知識のキノコだえ!)
「どれくらい意識を失ってたの?」
(丸一日だえ)
「うーん。頭がまだ痛い」
(人族に知識のキノコを使ったのは初めてだったから、こんな副作用があるとはな。勉強になっただ…カ、カエデ、揺らすのをやめるだえ!)
このクソキノコめ!
お腹すいた…
「ヴゥー」
ユキが目の前にポトッと草を落とす。あ…これバッケ…ふきのとうだ。
ユキに案内してもらい、ふきのとうを採取する。ふきのとうはそのままでは苦いので、アク抜きをして…スープにする。あぁ…味噌があれば最高なのに。
空腹も落ち着いたところで、ベニを問い詰めようとしたが…ふきのとうの上でギンと根を張って動かなくなっていた。自由すぎる…
地図を確認する。
おー。なんとなく読めるけど…片言のような感じだ。
(我は人族の文字はあまり読めぬ)
「あ、起きた?」
片言でも読めればいいっか。ボロボロの地図を広げる。なになに…右端にはシノモリのチズ、バツの所にはオークノ集落、湖にはキセキノ泉と書いてある。
死の森….
(人族が勝手にそう呼んでいるだけだえ。ここは恵みの森だえ)
床下収納で見つけた綺麗な地図を広げる。こちらは、ボロボロのより範囲が広い地図だ。死の森がここで、北には、雪山ががある。ユキちゃんたちはここから来たのかな? 湖の位置から南に下ると街があるようだ。この地図は、幾つかある町の中でも一番大きいオオトライジェルを中心に作られている。王都ライジェル?
森から一番近い街は…ガーザって所か。王都に比べたら、豆粒のような所だ。この地図は、ボロボロのより綺麗だけどさ…いつの時代かもわからないし、どれくらい正確かも分からない。でも、これしかないし…とりあえず、このガーザって所を目指そう。
「ねぇ。ベニ…ボロボロの地図のこの黒で塗りつぶされた森の部分は何?」
(そこかえ…そこは迷いの森だえ。悪戯好きの妖精の住処だえ)
ここは、避けていこう。
(ギンがいれば、大丈夫だえ)
ギンは、起きてきてこちらにテケテケと歩いて来る途中で、
うん。悪戯な妖精の住処は、避けていこう。
荷物はギンが収納してくれたおかげでだいぶ軽い。私が持って歩くのは、10Lのバックパックと武器だけだ。もしかして、ドラム缶風呂も収納できるかと期待したが、ギンには、フルフルと頭のカサを振られ拒否された。ちぇ。
結界の膜は、殆どの効力が失われ…ギリギリログハウスの回りを囲っている状態だ。
明日、ここを出立する。
思えば、約一年の間ここに居た。最初は、兎すら殺せなかったのに…今では兎食いのカエデちゃんでゴブリンやオークも通常作業のように始末できるようになった…成長したのか…ワイルドになりすぎたかな…?
ドラム缶風呂を沸かして、暫く入れないだろう風呂にじっくりと浸かる。
今夜は、早く寝よう。ベッドに入って天井を眺める。くっ寝れない。明日から野宿の旅だと思うと…人の街に行く期待もあるが、不安が一気に押し寄せてくる。
ベニが一匹、ベニが二匹…
ベニを数えていたら、いつの間にか眠りについていた。
▲▲▲▲▲▲
朝だ! 時間は、早朝4時。
残りのふきのとうスープを温めて食べる。
忘れ物はない…筈。
ログハウスの外には既にユキちゃん達とベニ達がいる。
ギンがよじ登って肩に座る。
(出発の時間かえ?)
「うん…ベニ、色々とありがとう。私がここで一年近く生きる事が出来たのもベニのおかげだよ」
(我も楽しんだ)
「スマホの使い方とソーラーバッテリーとかの使い方は大丈夫?」
(大丈夫だえ)
「そっか…」
次にベニにいつ会えるか分からない。もう二度と会えないかもしれない。ジワっと涙が出てくる。
(泣くでない。またすぐ会えるぞえ。ギンは我の分身ぞえ)
「どういう意味?」
(ギンが育てば
は?
なにそのマジカルな話。
今生の別れじゃないと聞いて、安堵から涙が更に出てくる。
(泣き終わったかえ?)
「ズズ…うん」
(カエデは心配だえ。これも持っていくだえ)
渡されたのは、五つの鮮やかな緑色のキノコ。
「え…普通に要らない…」
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