出立の準備

「グギャグギャ」

「キャンキャン」

「ブモォォ」


 あああああ! うるせー!

 

 四月目前、結界の膜がぐんと狭くなった。おかげで…朝から外では、魔物の大合唱が聞こえる。


 カン…カンカン


 ん?

 急いで外に出る。

 あーあ。遂にログハウス付近まで矢が届くようになったか…


 石の魔石の弾丸でオークを撃ち。残りは水の魔石の高圧放水で攻撃。デモ隊を鎮圧している気分だ。

 水に攻撃で、弱ったゴブリンやコボルトの犬をスパスパキラキラ剣で斬る。この剣にも名前付けようかな?


 命名スパキラ剣。


(ここ迄来たか。もう、結界は数日と持たないだえ)

「そうだね」


 イカ戦から二週間、出立に向けて準備をしてきた。目指すのは人のいる里。特に気をつけなければならないのは…外での夜通しのキャンプ。これは、二回練習を行ったが…不安だ。結界の外でのユキちゃんたちと交代で見張りの訓練。久しぶりに見たテントが懐かしかった。うどんはすぐ寝るので、ユキちゃんと私の交代制だ。ユキは、音がすればすぐに起き上がり、うねり声を出す。ベニとゴキちゃんズも訓練にはいたけど…ベニたちは、人の里へは一緒には行かない。

 

(我はここの森に住む者だえ)


 無理に森からついて来てとは言えない。

 数日後には出立する。外はまだ肌寒いが、夜通しキャンプでも耐えられない寒さではなかった。ベニによると人のいる所まで約二週間…食べ物もだが、風呂も二週間入れないのか…


「私がここを離れたら、ログハウスが荒らされるのかな?」

(心配するでない! 我はここに住むことにしただえ)

「え? 危なくない? 今でさえ狙われてるのに」

(我は妖精女王ぞえ!)


 いや、この前、余裕でゴブリンに追いかけられてたし…ワイバーン君の火を浴びて倒れてたよね? 


(ゴブリンはちゃんと倒しただえ!!! カエデが去ったら、ここに隠匿の魔法を掛けるだえ!)


 ベニ曰く、結界の魔法より自分の住処にかける隠匿の魔法は楽らしく、力もそんなに使わないと言う事だ。なら、私も去らなくて良くない?


(カエデは食べ物がないと生きれない。頻繁な出入りで、住処の隠匿を嗅ぎ付けられたら困るだえ。それに、塩はどうするだえ)

「ああ…そうだったね」


 塩は、もうあと数回分あるかないかだ。塩味付きの干し肉も殆どない。

 ベニと話しができたことで、精神状態を保っていたってのもあり、ベニとの別れが辛い。それに…今更ながら、現地人に言葉は通じるの? 地図に書いてある文字は読めない。意思疎通出来ない可能性を今の今になって気付く。


(相変わらず阿呆だ。心配だえ)

「現地人と意思疎通出来るかな?」

(カエデ…我と話しができる時点で大丈夫だと思うが…条件次第では、我の人族の言葉の知識を与えるだえ)

「そんな事出来るの?」

(我は妖精女王だえ!!)

「条件って……?」


 ベニはモジモジチラチラしながらとある物に目線を送る。

 スマホだ。

 正直、スマホは最近、ベニのゲーム以外は使ってないから問題はない。


「…スマホが欲しいの?」

(うむ。我はあれの虜だえ)

「いいんだけど…」

(言葉だけでは、同等な取引とはいえぬか…なら此奴らも連れて行ってくれ、役に立つぞえ!)


 どこから出したか分からないけど、テーブルには横たわる黒いベニの分身。その隣には急いで駆けつけた、子ゴキちゃんがいた。

 何の役に立つの!? ねぇ!?


(見ておれ)


 子ゴキちゃんが、ベニの分身と一体化し始める。あー。こう言うホラー映画ありそう。子ゴキちゃんの身体が半分ほど融合したところで、ピクピクと痙攣し始める。ゴキブリホイホイに捕まって最後の悪あがきをするだ。

 一体…何を見させられてるんだ。ベニに視線を移す。


(カエデのそんな熱い視線は怖いだえ…ほれ、出来たぞえ!)


 青白く小さく光ったと思ったら、カサと柄は青を含んだ銀色にヒダは群青色のキノコが立っている。

 トコトコとキノコがこちらに歩いて来て、指にスリスリをする。


「だえ~」


 だえ~だえ~と、青いキノコから幼い子供の声が聞こえる。か、可愛い。

 不覚にも目尻が垂れてしまったが、これって何?


(我の分身と妖精の融合体だえ! あの湖の怪物は相当栄養があったのだな! ここ迄良い出来は初めてだえ)


 あの黒いデンジャラスキノコと子ゴキちゃんの融合体…これを連れて行けと?


「だえ~」

「……ベニ、この子は何を食べるのかな?」

(カエデ、顔がだらしないぞえ。我の時と態度が違うでないか)

「可愛いから仕方ないじゃん」

(くっ。暫くはこれを与えよ)


 糞転がしの転がすような茶色の玉を十個、直で手に置かれる…念の為に、においを嗅ぐ。無臭だ。

 とりあえず、一個玉を与えてみた。青いキノコは玉に上り、以前のベニと同じように根を生やして動かなくなった。

 名前を付けてあげたほうがいいよね…よしこの子は【ギン】にしよう。


(ギンかえ。良い名だ)

 



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