イカ戦 2

「やああああああ」


 剣を斬り込んだ触手が切断される。勢い余って自分を斬りそうだ。そんな事したらベニの言う通りのリアル阿呆になってします。

 切った箇所から黒く青い液が飛び出す。これはイカの血なの? 全身にイカの血しぶきを浴びる。イカは、斬られる度、全身に赤い斑点はんてんが駆け巡る。

 イカは、もしかしたら足元が見えないのか? 的確な反撃が出来ていない。チャンスかも! 剣を上に向けてイカの本体を下から刺す。


「キュエエエエエエエ」


 触腕が、こちらに向かって振り落とされる。間一髪で避けるが、勢いづいて地面を転がってしまう。

 立ち上がろうと地面に両手をつくと、ドバッと上から水が落ちてくる。

 あ…違う…これ墨だ。

 

「おぇぇぇ」


 嗚咽が止まらない。墨は、生臭さと卵の腐った臭いで目に染みる。

 前が見えない…

 顔を拭っても拭っても、ベトベトの液が取れない。不思議水を顔に掛ける。


 はぁはぁ


 なんとか視界は見えるようになった…が…最悪だ。キラキラスパスパ剣があんなに遠くに落ちている。近づこうにも触手が邪魔をする。結構な数の触手を切り落としたつもりだったけど…無限に生えてきてるの? ううん…そんな事ない。前よりボリュームが減っている。落ち着けカエデ。


 風の魔石で無数の風の刃を出す。前と同じでイカは残った右目を庇う。剣を拾い行こうと走り出すが…あと一歩のところでイカに足を掴まれる。

 片足を持ち上げられ、空中で逆さ吊りにされる。上下に乱暴に揺らされると、持っていた武器の大部分を地面に落としてしまう。

 イカは触手を広げて始めた。露わになるには…口だ! 黒いクチバシのような物が見える。

 

 やばいやばい。絶対、お食事タイムだよ!!!


 クチバシが開くと、口内からは無数の螺旋状の歯が見える。噛み砕きスタイルか。絶対痛いだろうな。

 残っていた武器のナイフを抜き、足にまとわりつく触手を切るが…次々と新たに伸びてくる触手を振り払えず、更に強く掴まれる。ナイフで切ってもキリがない。徐々にイカの口が迫ってくる。


 どうする? どうする? どうする?


 考えろ! カエデ


『カエデ、いざとなったらこれを使え』


 そうだった。ベニに貰った黒いキノコ。ジャケットのポケットは、ファスナーを閉めていた。先程、揺さぶられた時も落ちてないはず。

 ポケットをまさぐる。あった。小さな歪な丸いキノコ。


 これを、どうやって使えと!?


「キュキュキュ」


 イカの勝ち誇った様な声に怒りが湧く。

 くそっ。ここまでか!


「前菜にキノコでも食いやがれぇぇぇぇ」


 毎日のように、うどんとボール投げをしているからか? 絶妙なコントロールで黒いキノコがイカの口に入る。口が閉じ、歯が軋む様な音が聞こえる。

 

 何が起きるのかと、乾いた口でゴクリと唾を飲む…


 何事も無かったかのように再びイカの口が開く。


 おーーーい!! ベニさーーーん!


 瀬戸楓、享年28歳。理不尽に異世界にに飛ばされて、いろんな生物に敵対され…泥にまみれながらサバイバル。最近のお友達は狐似のフェンリル、キノコにゴキブリと…寂しい人生だな! おい!


 徐々に迫るイカの口からは、生暖かい風が吹いてくる。臭いよぉ…


「キュキュ…ギュエエエエエエエエエ」


 急に激しくもがき苦しみ出したイカ。

 足は蝕手から解放され、荒々しく地面に投げ落とされる。


「いてて」


 頭から落ちなくてよかった。

 見上げると、イカは苦しそうに暴れながら、赤、黄、青と色を変えていく。信号かよ!

 イカの胴体からぽつぽつと水膨れができたとは思ったら、一瞬で全身に黒い発疹が現れる。イカは、立つ力もないのか地響きと共に地面に倒れる。

 黒い発疹はイカの全身を覆い、やがて一つのキノコがポツンと胴体から生えてくる。栄養を全て吸っているか如く、イカが干からび、対するキノコは成長していく。


 何だこれ…??


 イカが倒れたのが聞こえたのか? ベニとユキちゃん達がこちらにやってくる。うどんは…大丈夫そうだ。


(無事かえ?)

「ベニ、あれは何?」

(何と! 無事に植え付けたか!)

「説明は一切なかったけど…あれで正解なの?」

(うむ! あれは我の分身だ。胞子が出ると、相手に寄生して栄養を全部吸って大きくなるだえ)


 おーい! このキノコ、何を誇らしげに語ってるんだか! そんなデンジャラスな物を説明なしに渡してくるって!?


「ベニ。助かったんだけど、後でお話し合いね」

(語るのかえ! 良き良き)

「…」


 さて…周りを見渡す…すごい惨状だね。投げられて倒れた木々に、ネバネバの青い血と生臭い墨。そして干からびたイカ。スルメっぽい。胞子関係がなければ、炙り焼きするんだけどなぁ。

 ベニがスポッとキノコを抜くと平らになったイカは随分と縮小した。それでも大きいのだけれど….


「これじゃあ。魔石も干からびてるかな?」

(魔石は、まだあるだえ。我は魔石は食べぬ)


 どこが、心臓部分なんだろう…分からないので目の部分を抉る。この部分はまだ完全に干からびておらず、体液の糸を引く。目玉の中に何かがキラリと光る。グサッと目玉にナイフを刺し光った物をほじくり出す。


 梅ほどのサイズの紫の宝石? いや、赤い魔石だ。しまった!! 手の傷から赤い魔石が体内に入る…最悪だ。魔石が入っていく途中まで腕に浮かぶ形は見えたけど、その内消えていった。


 くっ。スキル、スルー。


 結局、イカの心臓は頭のカサ近くにあった。心臓にも魔石があり、魔石が二つ取れたのは初めてだった。心臓付近から取れた魔石は、持っている水の魔石の倍ほどの大きさの濃い青だった。


 湖の水を吸わせると恐ろしい量を吸収した。湖の量が減った気がするんだけど?

 帰り道は、湖で水浴びしたのに…みんなに距離を取られた…やっぱり臭い?


イカは持って帰っても…きっと食べないので…放置した。


 スルメ…

















いつもご愛読ありがとうございます。


今年は、このエピソードで最後になります。

皆様、良いお年をお迎えください。

2022年もよろしくお願いいたします。



トロ猫



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る