「やっとで雪が降り止んだね」

(長かったぞえ)


 結局、雪は二月まで降った。

 食べ物は、定期的に来たオークのおかげで、ユキちゃんたちの干し肉が余っていたので十分足りた。薪はギリギリなんだけどね…夜は寒くユキとうどんと寝ている。

 洗濯は室内では干せたが、野外で干すとカチコチになったので…大変汚いが、洗濯はそこまでこまめにできなかった。魔石で洗濯を挑戦はしたが…微妙だった。とにかく持続性がない。

 持続出来る魔石は、微かに光を放つ光の魔石くらいかな…ランタンとして使っている。

 冬越えでこもっていると、暇な時間が多くなった。ベニからこちらの世界の事情を教えてもらったり、ゴキちゃんズに芸を教えながら過ごした。彼らは芸達者で、最近は組体操のピラミッドやバベル擬きができるようになった。

 ベニの情報は、いつの時代の話かわからない妖精の噂話だけど…この世界の事を何も知らないので、聞いていても損はないと思いたい。

 そろそろ魔石の水も尽きるので、雪が降り止んで良かった。雪が溶けたら湖に向かう予定。



▲▲▲▲▲▲


 三月になった。気候はまだ寒いが、真冬の寒さと比べればマシだ。

 結界の膜は日に日に狭くなってきた。私には膜が見えないが、ベニの目?には膜が写っている。ベニの指示で目印の識別テープを移動するのが、近頃の私の日課。


 タタタタ


 うどんとゴキちゃんズは、すっかり仲良しになった。追いかけ合い…ログハウスの中ではやめてね。


 タタタタドンドン…ガリッ


 ……床に大きな傷がつく。


「コラーーー!!!」


 仮にも私のログハウスではないので…傷をつけるのは、やめてほしい…既に色々壊したりしているけど…

 遊び盛りのうどん達を外に放り出す。雪の中で遊んでおけ!

 傷の付いた床を確認しに行く。結構大きな引っ掻き傷だ。ささくれた棘が危ないね。今、修繕は出来そうにないので、ソファの下にあるラグをダメージの上に引いて誤魔化そう。

 ソファを持ち上げ、下にあるラグを引っ張る。

 あれ? ラグの下に床収納がある。今まで気づかなかったけど、食べ物が収納されているかも!


 ガチャガチャ


 鍵穴がある。鍵付きの床収納? そういえば、以前、壊れた謎の鳥の置物から鍵が出て来たよね? 確か財布に…あったあった。

 カチャッと床収納の鍵がはまる。やっぱりこの鍵か。床収納の取っ手を持ち上げる。

 中に入っていた物に言葉を失う。


キラキラした剣

お金の入った袋

防具

色んな魔石

地図

手帳

マント 

巨大な割れた紫の魔石

何かの書物?

メダル?


 混乱している。

 魔石は、明らかにこちらの世界のものだ。ログハウスと共に元の世界から一緒に来たの?


 手帳を読む。日本語で書いてある。でも…日本語の書き方に違和感がある。旧字体で書かれているのだ。超達筆~。なにこれ?

 古くて擦れている部分があり…所々読めないが、この手帳の主もこの世界に日本から転移して来たようだ。

 ログハウスにあったって事は、日本に戻れたって事だよね?

 手帳には、紅富士色べにふじいろ、妖怪石、くにかえるの文字が読み取れる。

 紫の魔石か!? 


 あー。割れとるやないかーい!!!


(これはまた大きな魔石だえ)

「何の魔石か分かる?」

(ここまで大きいと…長寿の魔物かえ?)

「ベニよりも?」

(我は魔物ではないが…ここまで大きい魔石は見たことない。割れておるがな…おお! そうかえ!)


 ベニは興奮しながら、ここに転移して来たのは、この魔石のエネルギーの所為ではないかと言う。力を使い過ぎて割れたのではないかと。

 …巻き込まれたって事?


(そうだえ。この魔石から、カエデを発見した時のエネルギー爆破と同じ残り香するぞえ。間違いない)


 少し座ろう。


 …



 カエデ! ポジティブシンキングだ! 発動しよう! スキル、プラス思考!

 

プラス

 ここに来てしまった理由も帰り方がある事が分かった。

 実際にこの世界へ来て、ここから日本に帰れた人もいる事。

 読めないところもあるが、手帳と言う情報。

 新たな武器に魔石


マイナス

 魔石が割れた。

 あんなデカい魔石の魔物は超が付くほど怪物である可能性。

 魔石が割れた(2回目)


 

 マイナスがゴリゴリと精神を削る。

 魔石を瞬間接着剤とかで繋げれないかな? この際、ダクトテープで…


(碌なことを考えておらん顔じゃ。残念だが、この魔石にはもう力は無い)

「……だよね」


 使えないものは、しょうがない。次だ次。防具とマントを着てみる。防具はオーストリッチ的な皮の物で、マントはウールと何かの毛皮が編み込んである。

 サイズ的には合いそうだ。以前の持ち主は昔の人だったから、男性でも小さかったのかな?

 剣は、何これ? 軽い。ログハウスの中で剣を振り回すのは危ないので外に出る。


 外まだ残雪の残る静かな景色だ。吐息はまだ白く頬に空気の冷たさが伝わる。

 うどん達は元気に外で走り回っている。可愛いな。

 はぁ…可愛いうどんの背後からゴブリンどもがやってくるのが見える。本当に奴らは無限に出てくる。

 膜の側まで行き、新しい剣でゴブリンを斬る。


 スパッ


 あれ…豆腐を切るかのようにゴブリンの頭が胴体から取れたんだけど…


 






 


 

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