冬の過ごし方

 ベニがログハウスに住み始めて数週間が過ぎた。ゴキちゃんズも結局当たり前のように居座っている。もう慣れたので大丈夫。大丈夫。大丈夫…


 指に入った魔石? 焦ったし、数日怯えて何も手がつかなかった。もしかすると、ゴブリンに変幻するのではないかと夜な夜なブルブルしてた。してたが…特に何か変化はなく通常通りの健康体だ。ベニには指を切れとアドバイスされたが、絶対ヤダ。

 痛いのは反対! 切ったとしても、魔石が指に残ってるとは限らない。


 外はすっかり冬だ。予想していた通り、寒い。食べ物は大量に貯蓄したが…


「グギャーグギャー」


 ちっ。ご近所さんは冬眠しないらしい。それに加えて、結界の膜が徐々に狭くなってきている。おかげで、奴らの汚い声が近くで聞こえるようになった。

 ゴブリンとオークが来るのは大歓迎だ。オークは、ユキちゃん達の餌として役立ち、ゴブリンはゴキちゃんズの餌だ。双眼鏡で覗く。おお! オークは二匹にゴブリン三匹か。また腕にはリボンらしき物が見える。

 ログハウスの上から、土魔法が出る赤茶色の魔石でオークの頭を狙い撃ちする。


 パン…パァン


 石の弾がオークに向かい、頭を吹き飛ばす。倒れたオークから地面に鮮血が流れる。数週間、練習した甲斐があったね。スナイパーカエデちゃんの誕生だ。弾を打つ感覚がクロスボウと似ているので、練習も難しくはなかった。


「グモォォォォォ」


 うーん。問題点は、一度一匹に当たると他の奴らがパニックになってあちこちと動く。次の狙いが定められない。これは、クロスボウでも同様の問題点だった。

 ログハウスの屋根から下りて、釘バットを持って、現在の結界の膜の境まで行く。

 グギャーと襲ってきたゴブリンが膜にぶつかり、フラッとしたところを釘バットで殴る。最後にオークの頭を粉砕して、魔石を回収する。


「ユキー、うどーん。ご飯だよー」


 ゴブリンはゴキちゃんズに渡す。


 冷たい物が顔に当たり、空を見上げると雪が降って来た。くっ。食べ物集めもここまでか…積もらなければ良いが…


 次の日、希望とは裏腹に雪は積もった。


「はぁ」


 思わず、ため息が出る。一晩で膝上まで積もってる。これは、降り過ぎだ。このまま降り続けられたら困る。

 ユキたちは、楽しそうに外を走り回っている。珍しくユキちゃんもハイテンションだ。

 とりあえず、ログハウスの屋根の雪落としをする。


「ベニの結界が雪も跳ね除ければ良いのに」

(雪に敵対心はない)


 その後、数日に亘り、毎日雪が降った。森の恩恵は既に採れなくなっていたが、兎罠の確認に行けないのは残念だ。足元がおぼつかない時に敵に襲われたくはない。

 このログハウスは外国製なのか、ドアは内開きだ。扉を開くと、うん…目の前には雪の壁だ。遂に外にも出れなくなった。

 うどんが、雪の壁に突っ込んで、雪掻きをし始めた。あー。部屋に雪が入ってくるんだけど…

 雪のかき氷が出来そうだ。雪には不純物やチリが入ってるから、そのままは食べないけど…湖にも暫くいけそうもないから、雪を煮沸して水を確保する。

 薪や必要なの物は全て部屋に入れている。

 窓から雪をかきわけてログハウスの屋根に登る。


「わー絶景」


 辺りは、どこも雪に埋もれていて、背の高い木だけが所々に見える。折角なのでスマホで写真を撮る。最近は、スマホ自体付けていなかった。そういえば、オフラインでもできるゲームが入っていたよね。暇つぶしにいいかもね。その他のアプリは…役に立ちそうなのはそこまでない。


(この冬は、よう降るのぉ)


 ベニもゴキちゃんズに乗って屋根に登ってくる。


「グギャアア」

「マジかよ! お前ら良い加減にしろよ!」


 雪を掻いてここまで来たわけ? 巣がそれだけ近いのか? コイツら本当に馬鹿なの? 結界が狭くなったせいで肉眼でも奴らがどこにいるか分かる。

 実際姿は見えないが、雪の下で暴れているのだろう、雪が乱れている部分がある。


 殺しに行くのもめんどくさい。どうしようかと悩んでいたら、ゴブリンの断末魔が聞こえた。どうやらユキたちが片付けてくれたようだ。

 暫くしたら、ユキとうどんの口周りが赤い血で汚れていたので、オークもいたのだろう。

 スコップで、ドラム缶風呂とトイレへの道を確保して、昼食を食べる。干し肉のスープだ。最近のメニューは、主にこのスープだ。モキュモキュと干し肉を食べたら、筋トレをする。

 そんな日々を更に数週間過ごした。


「ベニー。この雪いつまで降るの?」

(…)

「ベニちゃーん! もしもーし」

(我は今、忙しいのじゃ!)


 ベニは、スマホのパズルゲームを教えて以来、画面に張り付いてる。


(カエデよ! すまほが黒くなったぞえ!)

「充電切れだよ」


 今日の天気は曇りだ。ソーラーチャージャーには、モバイルバッテリーも付いているので、そちらから充電する。


(まだかえ!)


 キノコにゲームをしたいとせがまれる日が来るとは…

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