これから

(カエデは騒がしいの)


 これ、臭いのするカメムシなのだろうか? 臭いがするならゴキのままの方が良いかも。いや、どっちだ。正解が分からない。

 ミントティーを啜る。はぁー落ち着く。


 今、重要なのは、ゴキちゃんズの形ではない。膜に期限ができてしまった事だ。それまでに日本に…でも、妖精女王でも良く分からない現象なのに…そう簡単に帰れるわけないよね。


(うむ。そうじゃな。無理じゃろな。あんな大きな魔力の爆発、数百年生きてたが、初めてみたぞ)

「数百年!? 長生き…って頭の中を勝手に読むのやめて」


 数百年も生きてた妖精女王でも驚きの威力なら…悔しいが、日本に帰ると言う希望は一旦後回しにしよう。超常現象を起こすとか一個人には無理そうだ。数ヶ月前なら絶望していただろうが…メンタルがちょっとおかしくなってるから…こんなニュースも余裕である!

 しかし数百歳って…超絶バ——


(なんぞえ?)

「いや、経験豊かな妖精さんかなと…」

(我は、まだ成熟しておらぬ、幼体だえ)


 妖精界では、数百年はまだ幼体らしく、結界などの大きな魔法を使うと暫く小さくなるらしい。

 魔法がある世界なんだ…


「そんなリスクを取って迄、膜の結界を張ってくれてありがとう」

(良いぞえ。おかげで我も成長した)


 ウィンウィンなら良い。どの辺が成長したのかちょっと分からないけど…

 『ここが成長したのじゃ』と見せられたのは、カサ部分についた薄い水玉模様だった。毒キノコ一直線な柄だな…ほのかに赤いのも気になる。カサを食い入るように見過ぎたか? 妖精女王が全体的に赤くなった。まさに毒キノコ…


「良かったね。キノコ…妖精女王は名前とかないの?」

(妖精女王が名前じゃ)


 呼びにくいな。毎回妖精女王妖精女王と連呼するのもなぁ。


(それなら、主が好きなように呼べば良い)

「良いの?」

(かまわん)


 ユキがこちらにチラリと視線を送る。稲荷ってつけようとした事、まだ根に持ってるのかな? ちゃんと『ユキ』と言う可愛い名前になったから良いでしょ?


「うん。それじゃあ。【ベニ】で」

(ベニかえ? 良い名じゃ)


 ベニテングタケから名付けたんだけどね。気に入ってもらって良かったよ。

 ベニといつに間にかゴキのフォームに戻ってたゴキちゃんズの触れ合いを見せつけられる。仲良いな。


(それで、カエデはどうするぞえ?)

「これから?」

(うむ。結界は芽が出る季節には消えるぞえ)


 その前にここを出立するしかないよね。寒い季節の移動は得策じゃない。出るなら春前か…結界の外…大丈夫だろうか? ベニも人族と言っていたので、人はいるのだろうが…人里までどれくらいかかるの?


(ここからじゃと…カエデの足なら二週間じゃな)


 二週間だと!? 遠くないか? 野営とか不安しかないんだけど…


(カエデに懐いとるフェンリルを連れて行けばよいだえ)



 ん?

 私に懐いているなんですと?


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る