猪狩り?

 さて、猪狩りをしようなんて勢い良く言い放ったが…数日、膜の外を見張っても猪は一向に現れない。いるのは分かっている。何かを掘って食べ散らかした跡があるのだ。

 本によると、猪は臆病な動物で天敵、この場合私、を見たら一週間以上同じ場所には来ないらしい。しかも縄張りがなく移動するらしい。臆病な事から、夜に移動してる可能性がある。猪は目が悪そうだしね。昼夜関係ないなら、静かな夜に出てきているかもしれない。

 姿が見られて逃げられるのもだが、夜は周りが何も見えないから不利なんだよね。

 あれ? でも前の膜にぶつかった猪は襲ってきたよね? 興奮すると襲ってくるのか? 敵意剥き出しは異世界動物あるあるなのか?


「キャウーン」


 うどんに、ボールをあげるべきじゃなかった。毎日ボールを投げてとせがむ。多分、百回以上は投げたと思う。毎回毎回ボールを持って来る顔が輝いていて…ボールを投げる事を断れない…ユキは相変わらず遠くからじっとこちらを見ているだけだ。あ、ユキが欠伸した。


 それから、猪狩りの進展はなく…数日が過ぎた。今日は膜の外で木の実など食べ物を集めている。この時期特有なのか、人差し指くらいの大きさのコオロギが沢山いる。ここの昆虫大き過ぎじゃない?

 目の前にボトッと薄紫の何かが落ちる。ん? これアケビ? 中はアケビ特有なねっとりとした透明がかった白いゼリーの果肉が入っている。少し食べてみると、ほんのり甘く柿に似ている。うん。アケビだな。上を見上げると葉に隠れて見えにくかったが、アケビが沢山あった。ただ、コオロギも沢山いた。

 昔、近所のお婆さんからアケビの皮の天ぷらと肉味噌炒めをお裾分けでもらった事があった。アケビは皮まで食べられるのだ。少し苦いが、苦瓜ほどじゃない。苦瓜…地獄だったな。そして、多分乾燥させることも出来る。コオロギ共なんて知らない。アケビは私のだ!

 今日は、上を突く道具を持ってきていない。一度帰ってから戻って来るか。


「ヴゥー」


 ユキが警戒した方を見ると、シューカッカッカと聞こえて猪が突然出てきた。待って! 待って! この前見た個体よりデカイんだけど!? 何あの牙? 無理無理。 あれ車じゃん!


「クチャクチャクチャ」

「ユキ、うどん! ゆっくり逃げるよ!」


 なんかブチ切れてるよ。猪が怒ったら、プギャアアアアアアアとか言うと思うでしょう? 正解はクチャクチャクチャなんですよ。猪と正対しながらゆっくりと後退りする。

 怖い! 怖い! 

 猪が見えなくなったので、全速力で膜へ向かう。ユキとうどんはもちろん私より足が速いので先を行く。


 ドスンドスンと音がする。追いかけてきたか! くそぉぉ。死ぬ気で膜まで走る。あと少しだ。


「グギャグギャ」

「邪魔だ! クソゴブリン」


 ゴブリンに体当たりして、転んだゴブリンをそのまま踏みつけて逃げる。膜の印が見えた。あと少しだ。

 あと少しの所で何かに引っかかって転ぶ。転んだ勢いで、身体がコロコロと転がり木に頭をぶつけ、意識が遠くなる。



 や…ばい


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る