第5話 数司

「あ、ありがとうございます!」

 感謝されるのは久々だな、と思いつつ、享也は疑問に思う。

「なあ、そういえばこの小隊、問題児の集団って言われてるみたいだが、それって」

「主にあの二人ですね」

 じとー、とした目で静林とドレイクを見るサラマンドラ。視線に気づいた二人は「いやそれはサラちゃんもでしょうが!」「そ、そうだそうだ~……」と騒いだ。

「……まじかよ」

 ショックに肩を落とした享也を裏目に、

「二人とも、語弊ですよ。私は何も間違ってないんですから」

「その思考から変えなきゃダメでしょうが!」

 堂々めぐりとした会話になりそうな気配を察したアーリアは、

「そろそろ、各々の能力の説明でもし始めたらどうだ? 享也も知りたいだろ?」

「あ、それは確かに。隊長になる以上それは把握しときたい」

「「話題をそらさないでくださいよちょっと!」」

「ぼ、僕も、そうしたほうが、いいと思う……思います」

「ちょ、ドレイクまで?!」

「だってこのふたり、とても仲悪いですから……」

「まあ、見ればわかるわな。この二人、戦闘中にもケンカしてそうな仲に見えるぞ、初対面の俺でも」

「じゃ、じゃあ僕から」

 いまだに女子二人がギャミギャミ言い合っているにもかかわらず、ドレイクが能力解説について始める。

「ぼ、僕の能力は、√-23番『熱量度位ヒートユニット』。い、いろんな単位を、摂氏、華氏、絶対温度の、み、三つに、換えれるんだ」

 分かりにくい能力だと思い、享也はアーリアを見る。ドレイクを見なかったのは、おそらく、説明が長くなるだろうし、ごにょごにょと言いそうなので彼女に頼んだのだ。

「ま、分かりにくいとは思うが、例えば――」

 そう言うと、アーリアは享也が座っている椅子を指さす。

「……? 椅子? 椅子がどうした」

「例えば、その椅子はアルミ製で出来ている。中は空洞だ。ざっと重さは500グラムってところかな」

「――つまり?」

「ドレイクの能力は、500グラムの椅子から500℃や500℉、500Kの熱を発生させることができるんだよ」

「ん~……そう聞いてもいまいちパッとしねえな。虚数値だから珍しい数司の力だとは思うがよ」

 そういう享也の真横を、何かが通り抜けて、後方でパリィン、と砕けた。

「ん? なん――」

 そう思って後ろを見た享也は、それが氷でできた弾丸だと認めた。

 前を見ると、ドレイクが拳銃を持って、引き金を引いていた。

「こ、こんな能力、だよ…」

「――パッとしないとか言って悪かった」

 つまり、ドレイクが認識した数値の単位を、熱の単位に置き換えて熱団として葉那テル、というものだ。

 ちなみに、今ドレイクが持っているのはベレッタM92。重さとしては1キロない程度。指定温度は1K、と言ったところだろうか。

「……んで、そこの女子二人は落ち着いてんのか」

「私は落ち着きました」

「ちょっとサラちゃん! 勝手に逃げないでよ!」

 サラマンドラは何食わぬ顔で享也に向かい合う。後ろで静林が何か言っているが、黙殺。

「と言っても、あんたの能力の場合は、説明聞くまでもなく、有名だったしな」

「ええ、まあご推察通りです」

 ですがまあ一応、体裁として、と言って、サラマンドラは口を開いた。

「先ほども言ったとおり、私は3番『直線突貫ストレートハイ』。その通り、一瞬で一直線を駆け抜ける能力です」

「そして、始祖五数の一つでもあるっていうな」

「そうです、おかげで私は、上からかなり目をつけられてまして」

 溜息を吐くサラマンドラ。享也も何となく経験があるのでその息苦しさはよくわかっている。

「あー、まあ、気にすんな。気楽にいこうぜ」

「そうですね」

「終わった? 終わったね?! よしじゃあ次はあたしね!」

 ゲっ、と顔を歪ませる享也に目もくれず、静林は意気揚々と声を発した。

「あたしの能力は26番! その名を『鉄片操作リモートアイロン』! 汎用性ナンバーワンの能力よ!」

「「「「そうかあ?」」」」

「んな?! だって実際そうでしょ! この時代に、主成分が鉄以外で出来た武器なんてないでしょ!」

「いや、まあ確かにそうだけどよ」

「だからって汎用性が一番かって言われると、なあ……」

 アーリアが問いかけると、ほかの二人もうなずいた。

「もーっ! なんでそんなにあたしを否定したいわけぇ!?」

「うるさいの一択です」

「か、可愛いんだけど、自己主張がおっきいんだよ……」

「なんだとー!? やるのかそこの二人ぃ!」

「とりあえず落ち着け、あと席に座れうるさいの」

「静林様だよ! この新入り隊長さん!」

 静林がそう言うと同時に、外から、鐘にしては少し低い音がした。

「おっと、時間ですね」

「やばやば! 今回100点取らないとまた-を減らじ損ねちゃうんだけど!」

「あー、この鐘の音色変わってないのな」

 享也にとっては懐かしい、育成中隊の、座学の予鈴だ。

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虚数大乱 時塚 有希 @tokituka

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