第4話 小隊長
「な、なんだ「お願いです! 私たちの隊長になってください!」
急にそう言いだしたサラマンドラ。ほかの二人も頷いている中、享也は必死に事態を飲み込もうと頭を働かせた。
「えー……? きゅ、急になんだよ。別に俺は部隊の中でもそんなに「どうかお願いします! 事情は説明しますから!」
展開についていけず、アーリアに助けを求めて視線を向けると、彼女は頷き、サラマンドラに向かって話しかけた。
「クリューネ、お前らしくないな。いくらあの二人の子守りがきついからって、入ってきたばかりのこいつに託すのか」
「そんな生やさしい理由じゃありません」
そういうサラマンドラの眼を見たアーリアと享也は、思わず身を震わせた。
顔の表情は変わっていない、だが、その瞳の奥には、様々な感情がこもっていた。
敬愛
畏怖
悲観
憎悪
憤怒
そして、それらが瞳の奥から涙となって溢れ出ている。
「……クリューネ、お前、まだあいつのことを「先生、お願いします。彼を私たちの隊の隊長にしてください」
アーリアは目を閉じ、思案し始めた。享也は、そんな様子を見て複雑な事情があるのだと察した。
目を開いたアーリアは、ぼそりと呟く。
「んー、こればっかは享也次第だな」
「俺か?!「当たり前だろ? 頼まれたのはお前だし、何より小隊の隊長決定権は教官にはない。小隊のことは小隊で決めるんだよ。忘れちまったのか?」
ぐっ、と言葉を詰まらせる享也だが、何も言い返せない。
「い、いやな? 別に引き受けるのは構わないんだがよ……」
呟くと、真剣な目で、サラマンドラを睨む。
「――なんで、俺なんだ。別に能力によって決めたわけじゃねえよな。決め手は「日本人だからよ」
問いただそうとした矢先に、静林が答えを出してきた。
「はあ? なんじゃその理由」
「――さっき、隊の人数が減った、て言ったわよね」
「あ、ああ。言ってたな」
「その減った隊員が、私たちの隊長だった人――
その名前に、享也は目を見開き、そして合点がいった。
「ははあ。つまり、俺にその代わりになれってか? 性別も違うのに?」
「それもありますけど、もっと深い理由があります」
サラマンドラが、声を上げた。
「深い理由? んだそりゃ」
「き、君が、蛍子隊長と、似た匂いがするんだよ……」
そう口を開いたのは、今まで黙っていたドレイクだった。
「匂い?」
「あ、あの、物理的な匂いじゃなくて、雰囲気、というか、空気というか。なんか、そういったものが、蛍子隊長と、すんごい似てるんだ」
「きっと、あなたなら、蛍子隊長のように私たちをまとめてくれる、そう感じたからです」
おいおいまじかよ、と心の中で愚痴る。自分では人の上に立つような質ではない上に、勝手に期待をかけられても困る、という風に肩をすくめる。
「あー、言っておくが、俺は別にそんなまとめ上げたりとか、指揮したりとかは苦手だぞ? それでもいいのか?」
「私は構いません」
「あたしも、サラちゃんよりも寛容だったら「静林?」
余計な一言に、クリューネが静林を見る。そっぽを向いて口笛を吹くも、冷や汗を流していた。
「僕からも、お願いします。た、隊長に、なってください」
「―…………」
享也は三人を見て、そして、アーリアを見た。
「――いいんだな」
「享也がいいんなら、うちは構わないよ」
アーリアに確認をし、享也は。
「――了解した。お前らの隊長になってやる」
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