かくれんぼ

ZOMBIE DEATH

かくれんぼ『肝試しの北トンネル』


「歌波逃げて!」


「小鳩!!私一人じゃ怖くて無理だよ…………」


「早く行って!助けを呼んできて……お願い!歌波!私だって一緒に逃げたいけど脚が!!」



「もーいーーかい?…………………」



「もーーーいーーーかーーーい」



 気色の悪いシワガレタ声の後……二人の少女の今にも泣きそうな声が闇に飲まれる……




 それは非常に蒸し暑い夜の事だった……仲良し5人組で夜の学校に忍び込んで『肝試し』をしよう……と言う事になった。


 これは良くある高校生の行事に様なものだろう……『学校』であればだ……



 私達は高校の同じ部活『軽音楽部』だが、肝試しには一番ビビりのかなみは猛烈に反対した。



 でも皆で『高校生活の思い出を残そう』と言う彩姫の言葉で渋々やる事になった。


 肝試しのメンバーは小鳩コバトに歌波カナミそして彩姫サイキにみさと茜アカネの仲良し5人組だ。



 当初は『学校』であったが、残念な事に忍び込めなくなった。


 同じ学年のバカ3人組の、洋と颯眞に龍一が先に学校へ忍び込んで当直の教師と用務員に見つかったのだ。



 毎年必ずそうするバカ生徒が居ると、軽音楽部の顧問が言っていた。


 私達が『肝試し』をしようと考えたのはその先生の台詞が原因だ。



 因みに捕まった三馬鹿トリオは、同じ『軽音楽部』の部員だった。



「あれ?彩姫?今行くとヤベェよ?……マジで怒ってたよ!あの体育教師の脳筋田中!見つかって追い出されたよ!」



「ってかさ〜洋!!アンタ達がマヌケなんだよ!何だよ折角忍び込もうとしたのにさ!!」



 洋と呼ばれた少年は、彩姫のグーパンチを腹に受ける。



「ぐえ……イッテェ……ははは!悪い悪い!!まさかこんな早く見つかると思わなかったんだよ!彩姫達が夜の校舎で肝試しやるって言ってたのを颯眞に聞いたからさ……折角だから盛り上げてあげようかな?ってさ……」



「盛り上げてじゃ無いよ!盛り下がってん!!じゃん!!」



 凄い肝試しを楽しみにしていただろう彩姫は、本気で怒っている。


「じゃあさ、北トンネル行って肝試しの続きしようぜ?あそこは幽霊出るって有名だから!」



 洋の発案で北トンネルに行く事になった。


 学校の側に車が通れるのに『車両侵入禁止』になったトンネルがあるのだ。



 そこのトンネルは夜中1:04分に車で通る度に『必ず事故』が起こるので有名だった。


 事故を起こした全員が、何かを『耳元で複数の人にいっぺんに話されている』状態になったと言ったのだ。


 そして恐怖の余りハンドルから手を離して耳を塞いでしまい、事故に遭ったと言うらしいのだ。


 ただ『話している言葉は早送りしている様で聴き取れない』そうだ。


 事故が続くせいで『車両侵入禁止』になった曰く付きの場所だ。



 その近所に住んでいる『洋』はそれを『自転車で何度か試そう』として、警察にこっ酷く叱られていた。


 事故が多発するのだから、万が一通行人をはねたりしたら一大事だ。


 だからこそ警察が、その時間『深夜巡回』をしているのは不思議では無い。



 しかし警察に邪魔されるその度に、洋は部室で文句を言っていたのだ。



 今日は人数も居るので絶好のタイミングだ。


 とうの洋は万が一警察がいても『皆に任せて自分は検証出来る』……とか簡単に考えていた。


 実に身勝手な発想だったが、周りとすれば肝試しだから『警察含めて全てがドキドキもので楽しい』と考えていた。



 当然ビビリの歌波を除いてだが……



「さいちゃん……じゃあ……行ってみようか?」



「あかねー!!私やだよぉ〜学校って言ったじゃん!」



「良いじゃん!学校は三馬鹿のせいで、もうダメそうだから!トンネルにしよう!このさいちゃんが歌波の側にいてあげるから!ね?」



「全く!歌波は怖がりだなぁ!小鳩を見ろ!小鳩を!幽霊より怖いぞ絶対!」



「うぉい!みさ!私が怖いか?よしアンタの枕元に今夜立ってやる!ヒッヒッヒー!」




 周りが一生懸命に歌波を笑わせるので、彼女は『仕方ない……頑張る!』と言っていく事を決心した。


 腰が引けてビビる歌波を、その後も宥めて皆で行く事になった……




 北トンネルの脇には、小さいながらも公園がある。


 この公園は、近くの団地の子供が遊ぶ為に作られた物で間違いはないが、深夜1:04分ともなれば誰もいるはずが無い。



 トンネル側に行くと案の定警察官がいて、見回りをしていた。



「後7分で1:04分だよ?小鳩どうする?」



「茜……どうするも何も、警察は流石にやばく無い?学校に知れたらさ……どう思うさいちゃん?」



「でも折角此処に来たんだよ?……歌波も頑張ってきたのに!それに遠回りになるよね?此処まできたんだから戻ってる間に、警察に遭っても同じ事じゃ無い?」



 しかし案ずる必要は無かった。



『おい!もう後5分だ!此処から離れるぞ!』


『はい!先輩!!急ぎましょう!!』



 残り5分くらいになると、警察官は何やら慌てて自転車に乗ってその場を立ち去ろうとする。


 自転車に乗る前に何かを話していたが、距離があって聴き取れない。



 ど深夜なので静かな筈だが聴こえなかった。


 その理由は救急車のサイレンが遠くで聴こえた……今まで気にならない程に僅かな音であった筈だが今は見事に邪魔をしていた。



「運が良いね!警察官居なくなったよ!持ってるじゃん?私達ってさ、三馬鹿トリオと違うんだなーやっぱり!」



「はいはい!そうでございますね?サイキセンセ?はよ行こう!警察が来ても困るっしょ?」



 彩姫の一言で皆行く気になった……『折角此処まで来たのだ』と言う気持ちも後押しをした。



「みんな!今1:03だよ!洋もう入って良いの?」



「多分もう入っていいと思う……俺も初めてだからな?何時も捕まるんだから!!」



「あーら!そうでした!!持ってる私が一緒で良かったわね?」



「はいはい感謝してますよ!じゃあ『せーの』で入ろう!」



「「「「「せーーの!!」」」」」



 僕達はお互いの顔を見て、声を合わせる………




『………キーーコ…………キーーーコ………』




「「「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」」


「「「うぉぉぉぉ」」」



 唐突にブランコが動き軋む音でつい声が上がる……



「風だ風!!ビックリしたなーおい!!」


「めっちゃビビった!」


「さいちゃんの『きゃぁぁ』初めて聞いたよ私!?」


「うっさい!小鳩!私だって言うよ!」



 ビビリっぷりを誤魔化す為に皆一気に饒舌になる



「あ!1:04になってる!!」



 龍一の言葉に我に帰った僕達はトンネルに入る………



「あれ?何もなくね?どうなってんだよ?洋!ガセネタか?」



「そう言われてもな?颯眞……車じゃなくて『歩き』だぜ?」



「本当だよ!折角学校で肝試しするつもりだったのに!ワテクシさいちゃんはガックシだぞ?結局トンネル………『いいかい……いいかい……いいかい……いいかい……』……え!?……う……うそ?」



『もーーーいーかい』



「「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」」



 全員でトンネルに入って数歩中へ歩いた時だった……急に『もーいーかい』と聞かれた……真後ろからだ……


 そこには龍一が立っていた筈だが今は居ない……何故か『小さい女の子がしゃがんで手で顔を覆って』いる。



「龍一どこ行ったんだよ!おい龍一!龍『もぉぉぉいいぃぃぃぃかぁぁぁぁいぃぃぃ』…………」



「「いやぁ!!」」


「「「きゃぁぁぁぁ………」」」



 女子達5人はビックリしてトンネルを飛び出ようとするが、トンネルの出口が見えなくなっている……



 たった数歩入っただけの筈なのに、今は外が見えない……


「さいちゃん!出口が……出口が見えないよ!!」



「落ち着いて!歌波!錯覚だよ!絶対錯覚だって!!」



「小鳩!流石にこれは落ち着いてられないよ!出口が見えないんだよ?」



「茜!あの子供は何だったの?ねぇまだ居るのあの子供は?誰か見てよ!ちょっと男子見なさいよ!!洋!!」



「ミサ!落ち着いて!パニックになったら皆が怖がるから!どうなってるの?洋!!何なのよこれは?」



 彩姫が振り返ると既に男子は居なくなっていた……代わりに出口が見える……



「で……出口が!あそこに出口が!みんな!出口に走るよ!!」



「出口が?………さ!さいちゃん!横に居るのは………ナニ?」



『もぉぉぉぉおぉぉぉ………いいぃぃいいいぃぃ………かぁぁぁあああぁぁぁぁあいぃぃぃぃ!!』



「やだ!もうやだぁぁ!!」



 歌波は泣き出しパニックになってしまう……そんな歌波の手を取って走り出す彩姫。



 そして恐怖に顔を引き攣らせつつも、女子達は一斉に見える出口に走って逃げる……



『いいかぁぁぁいい』



『もぉぉぉいいぃぃぃい』



『いぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁぁぁああああああいぃぃぃぃぃ』



「うるさい!うるさい!うるさい!」



 小鳩はそう言いながら一生懸命走るが………後ろで『ミチミチミチミチ』っと音がするので友人に何かあったのでは?と思い振り返ってしまった……


 しかし何かがあったのは友人ではなく少女の方で、上半身が半分に分かれた状態で走ってくる。



『ガボガボ……ゴバ……ガボガボ………』



『ガボガボ……ゴバ………ゲボガボクガ………』



 顔が半分になったせいで声が出ない『それ』は何を言っているかわからないが『大凡の想像が付く』…………


 多分………『もぉいいかい』と言っているのだ。



 恐怖のあまり全員が走るが、小鳩は脚がもつれたように転んでしまう……


 そして運が良いのか悪いのか……倒れた際に強く頭を打ちつけて失神してしまい動かなくなる。



 さほど間を開けずに、逃げているミサと茜が次々に転ぶ………



 彩姫だけが歌波を庇う為に身を翻したが、残念ながら背後に転倒して頑張って逃げた歌波も脚を取られて同じ様に転ぶ。



 はたから見れば転んだ様にも見えるが、実は脚がもつれたわけでは無く頭を打ちつけて気を失ったわけでも無かった……


 転ぶ際に全員が『それ』と目が合って、恐怖の余りに失神したのだ。



 『それ』というのは頭を抱えて丸くうずくまった少女で、足下に居て首だけ横にしてコッチを見てたのだ……



 その時にしっかり耳に聞こえた……『ナンデミツケテクレナイノ?』



 その言葉を最後に失神して意識を手放した……



 気がついたのは翌日で、全員が救急車で同じ病院に連れて行かれていた。


 頭を強く打った事で救急車で運ばれたそうだが、見つけて救急車を呼んでくれたのはあの『警察官』だったそうだ。



 その日は、検査の後に三馬鹿トリオも一緒に待合室で見た事を話したが、全員内容は同じだった。



 トンネル内では三馬鹿トリオを女子達は見る事ができなかったが、三人の男子は女子を見る事ができた。


 襲いかかって来る上半身が割れた少女を一番最初に退けたのが龍一だった。



 龍一はミサに飛び掛かろうとした『割れた少女』に飛びついて守った瞬間に気を失ったそうだ。


 次に颯眞が茜に飛び掛かろうとするのを身を挺して守ったが、その場で気を失った。


 最後に洋が女子を追いかけようとする『割れた少女』にタックルをして、少女の割れた顔を直視して意識を手放したところで男子は全滅した。



 女子はといえば……


 小鳩が転んだ時に例の蹲る少女と目があって恐怖で失神したが、その後に地面へ頭部を打ちつけたので痛みは無かったそうだ。


 そのあとミサと茜が小鳩と同じ目に遭い、次々に気を失った。


 最後に歌波を庇う為に彩姫が後ろを振り返り、飛びかかって来る『割れた少女』の顔を直視して失神して、最後に歌波が振り返った時に彩姫の足元に蹲る少女を見て失神した。



「最悪だったわ……ごめんね!歌波ちゃん……まさか本当に出るとは……」


「彩姫ちゃんのせいじゃ無いよ!それに同じ病室に小鳩ちゃんが居るから夜は多分平気だし!でも茜ちゃんとみさちゃんが羨ましい!三人同じ部屋って運が良すぎだよ!」



「謝るのは俺の方だよ……最悪な物見せて悪かったよ……肝試しに丁度良いと思ったんだよ……ごめんな……」



 強く頭を打ったせいで、頭の外傷など様々な検査に時間を要したので、待合室に皆で集まれたのは夕飯後だった。



『皆さん『消灯の時間』です。各自お部屋へお戻りください。繰り返します………………」



「ハヤ!消灯時間ハヤ!!」



「はははは!確かに早いね!10時前だよ?寝られないよこんな早く!!」



 洋が元気を出す様にちょっとふざけ気味に言うと、茜も同じ様に言う……夜更かし組だ。


 看護婦に部屋に行く様に急かされて、ブーブー言いつつも全員が病室へ戻っていく……



「では小鳩さんと歌波さんちゃんと寝てくださいね?話しててはダメですよ?」


 病室の電気が消されてから、怖がる歌波を揶揄う様に小鳩が……



「モーモーさんが!モー1回!」



「ちょっと!小鳩!怖いからやめてよ!そもそもモーモーさんって何よ?」



「語呂が似てない?いやーー歌波ちゃんの怖がる顔が可愛くてさ〜!さいちゃんがお気に入りなの分かるわ!」



「へへへ〜仲良しだから!私達は!」



「くやし〜くー!!私よりさいちゃん取るとは!!じゃあ辞めてあげない!モーモーさんが!モー1回!」



「こら小鳩!!」



『ガラガラ』


「ダメですよ?二人部屋だからって話さないで寝てくださいね?頭打って怪我してるんですから!それにあのトンネルで怪我した人はその日の夜大抵うなされるんですから!」



『ガラガラ……ピシャ!!』



 余りにも話に夢中だったので、看護婦が来た事に気がつかなかった二人は見事に怒られてしまった。



 怒られた事は然程気にはならなかったが、自分たちと同じ目に合った人の事を知っている口ぶりだった……




「「………………」」



「なんか怖いこと言われたね?」


「だね……寝よっか?」


「うん……寝て早く朝になろう!布団被れば寝られるよ……」


「だね!かぶって寝よう!小鳩ちゃんおやすみ!」


「うん!歌波ちゃん!おやすみ!」



 看護婦の言葉で怖くなった二人は布団をかぶって寝ることにした……が………



『ガラガラ』



「ダメですよ?二人部屋だからって話さないで寝てくださいね?頭打って怪我してるんですから!それにあのトンネルで怪我した人はその日の夜大抵うなされるんですから!」



『ガラガラ……ピシャ!!』



「え?何……今の?」


「小鳩ちゃん……怖いからそっち行っても良い?」


「良いよ!私も怖いから!狭いけど一緒に寝よう?」



『ガラガラ』



「ダメですよ?二人部屋だからって話さないで寝てくださいね?頭打って怪我してるんですから!それにあのトンネルで怪我した人はその日の夜大抵うなされるんですから!」



『ガラガラ……ピシャ!!』



『ガラガラ』



「ダメですよ?二人部屋だからって話さないで寝てくださいね?頭打って怪我してるんですから!それにあのトンネルで怪我した人はその日の夜大抵うなされるんですから!」



『ガラガラ……ピシャ!!』


『ガラガラ』



「ダメですよ?二人部屋だからって話さないで寝てくださいね?頭打って怪我してるんですから!それにあのトンネルで怪我した人はその日の夜大抵うなされるんですから!」



『ガラガラ……ピシャ!!』


『ガラガラ』



『もぉぉぉぉいいかぁぁぁぁいいいいいいい!!もぉぉぉぉいいいいいかぁぁぁいいいいいいいぃぃぃもぉぉぉぉいいいいいいかぁぁぁいいいいいぃぃぃぃぃ』



「やだぁぁぁ!!もうやだぁぁぁ!!」


「ナースコール!ナースコール押すから歌波ちゃん落ち着いて!!」



『はい?どうしましたか?小鳩さんと歌波さん?』


「看護婦さん!!変なのが部屋に!!化け物が!」


「小鳩ぉぉぉ変だよぉ〜……なんで看護婦さんが……私達一緒に居るの知ってるの??」



「え!?あ!!」



『はい?どうしましたか?小鳩さんと歌波さん?』


『はい?どうしましたか?小鳩さんと歌波さん?』


『はい?どうしましたか?小鳩さんと歌波さぁぁぁぁぁん!もぉぉぉぉいいいいかぁぁぁぁいい………」



「皆のところに逃げないと!!」


「小鳩ちゃん私怖いよ!!」


「痛……いっったい!……何?脚が……え?」



「歯形が………付いてるよ……小鳩ちゃんの脚…………」



「歌波逃げて!」


「小鳩!!私一人じゃ怖くて無理だよ…………」


「早く行って!助けを呼んできて……お願い!歌波!私だって一緒に逃げたいけど脚が!!」



「もーいーーかい?…………………」



「もーーーいーーーかーーーい」



『ミツケテクレルマデ………ワタシガ………ミツケルヨ?』



 その言葉のあと彼女達は意識を失った………

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