月のひかり
虹のゆきに咲く
月のひかり
第1話 ひもじい
ひもじい、配給がなぜか手に入らない
どうしよう
今日も草の根を食べよう
ご飯が食べられる日が来るのかな
卓也
食事がろくにできない人もいるんだから
残したら駄目よ
ああ、わかっているよ
母さん
お母さん、お父さん
生きているの
寒い、寒い
ここはどこ
残り火が少しある
しばらくここで休もう
あれ、乞食がいる
可哀そうだな
おい、どうした
うううん
どうして泣いているの
寒いのかな
うううん
よし、泣かないで
ちょっと待っていて
母さん
シーツを貸して
何をするの
まあ、ちょっとな
すぐ返しなさいよ
ああ
大丈夫
寒いだろ
ほら、これを被って
ありがとうございます
誰ですか
ああ、俺は卓也だ
君は
私は真美です
家はないのか
空襲で無くなりました
お父さん、お母さんは
どこにいるかわかりません
そうか、それは辛いな
なぜか配給をもらえなくて
なぜだろう
それがわからなくて
今日は親切にしていただいて
ありがとうございました
ああ、いいよ
でも食べるものがないんじゃないの
いつも、草の根を食べています
それは駄目だよ
ちょっと待って
母さん、さっきの残りは
ほら、ここだよ
もう捨てるところだったから
ありがとう、母さん
真美さん、これを食べて
いいのですか
ああ、草の根よりは美味しいよ
本当です
美味しいです
困ったら
この辺にいて
はい
なんとかしてあげるから
翌朝
急がないと学校に遅れる
ゴロ、ゴロ、バタン
痛い
怪我をしたな
大丈夫ですか
真美さん
ああ、大したことはないよ
傷を消毒しないといけない
でも、消毒するものはないよな
大丈夫です
ちょっと待っていてください
ああ、ごめんね
これを
ぬりぬり
消毒できましたよ
どうして
草の葉を絞ってぬりました
この草は傷にいいのです
そうなんだ
すぐ治りますよ
ありがとう
真美さん
ところで学校には行かないの
学校に行くには鉛筆とか買わないといけないでしょ
でもお金がなくて
鉛筆ならたくさん持っているよ
ノートやいろいろある
あげるから一緒に学校に行こう
怖いです
大丈夫だよ
一緒に行こう
はい
おお、卓也
誰だその女の子の子は
ああ、俺の友達だ
仲良くしてくれ
うわ
臭いじゃないか
顔も汚れているよ
真っ黒だ
はははは
うるさい
黙れ
卓也
お前の恋人か
ははは
うるさい
馬鹿野郎
真美さん
学校に連れて行ってごめんね
怖かったです
明日からは大丈夫だよ
俺は喧嘩が強いから
はい・・・・
第2話 川にて
そうだ
少し離れたところに川があるから
体を洗っておいでよ
はい
ここだよ
俺はあっちに行っているから
はい
きれいになったじゃない
そうですか
ああ、それなら学校に行っても馬鹿にされないよ
ありがとうございます
後は洋服かな
いえ、申し訳ないです
いいから、いいから
明日も学校に行こう
はい
母さん
トイレ掃除を毎日するからさ
お小遣いを頂戴
あなたは口ばかりだからね
少しだけじゃないか
ありがとう母さん
真美さん
洋服屋さんに行こう
いえ、これ以上
申し訳ないです
いいから、いいから
はい
これ、可愛いよ
本当ですね
おばちゃん、いくら
これだけあれば足りる
ちょっと足りないね
おばちゃん
今度じゃ駄目
この子の洋服なんだけど
お金を持っていないんだよ
それであんたが買ってあげるのかい
そうだよ
あんたも、優しいね
じゃあまけてあげるよ
ありがとう
おばちゃん
ありがとうございます
いいよ気にしなくて
明日から学校に行こう
はい
おお、可愛い子がいるぞ
昨日の子か
ああ、そうだよ
本当か
ああ
母さん
そういえば女中を探していたよね
真面目な子がいるんだ
どんな子かい
まだ、僕と同じ年なんだけど
とにかくいい子なんだよ
じゃあ、お願いするね
ありがとう
真美さん、うちの家で女中をしない
お給料もでる
本当です
ああ
ありがとうございます
真美ちゃん
そんなに一生懸命、床掃除しなくていいのよ
今まで働いたことがなかったので
うれしいです
そうかい、無理しないでね
真美ちゃんのお父さんとお母さんはどこにいるの
空襲で離ればなれになりました
そうなんだね、寂しくないかい
はい、でも慣れました
真美ちゃんはいい子だから
うちで、ずっと働いていいんだよ
ありがとうございます
ただいま
おかえりなさい
真美ちゃん、どうして学校に行かないの
働かないといけないからです・・・
ああ、真美ちゃん
ごめんね
お給料は心配いらないから
拓真と明日から学校に行っておいで
はい、ありがとうございます
卓也の世話をしてあげてね
はい
俺は世話をされるほどはないよ
あらあら、口だけは達者ね
よし、学校に行こうか
はい
でも、よかったな
住む場所が見つかって
はい、今まで食べる・・・
バン
おい、こら
おじさん、ごめんなさい
女の子か
もういい
痛い・・・
どうしたの
足を擦りむいて
よし、家から軟膏を持ってくるから
待っていてね
はい
ほら、もう大丈夫だよ
でも、痛いよね
それじゃ歩けないな
ほら、肩をつかんで
はい
一歩・二歩・三歩
少しずつ歩こう
真美ちゃん、どうして泣いているの
小さいときにお父さんがおんぶして
歩いてくれたの
泣かなくていいよ
お父さんじゃなくて
僕じゃ駄目だったかな
いえ、うれしいです
拓也さん
今日は学校にいかないと駄目ですか
どうして
この前の川までおんぶしてほしいな
でも、拓也さんが疲れているから
やっぱりいいです
大丈夫、大丈夫、真美ちゃん
やっぱり帰りましょう
軟膏もつけないといけないし
このくらいの傷は大丈夫だよ
はい
着いたよ
この間の川ですね
お水がとてもきれい
私は川で泳ぎます
駄目だよ、見えてしまうよ
でも、制服をきているから見えないですよ
そうかな
はい
僕は見えても大丈夫だけど・・・・
拓也さん
どうしたの
拓也さんも一緒に泳ぎましょう
あそこまで競争しませんか
ああ、いいよ
どっちが速いな
じゃあ、よ~いドン
足が届いてしまいますね
そうだね
拓也さんに
パシャ
わあ、私が速かった
ええ、真美ちゃんが水をかけるからだよ
拓也さんが遅いからですよ
それよりも
透けて見えているぞ
キャ
どうしよう
このまま、おんぶするわけにはいかないから
母さんを呼んでくるね
いえ、拓也さんでもいいですよ
駄目だよ・・・
大丈夫ですよ
本当・・・・
どうしようかな
拓也さんの意気地なし
わかった、仕方ない
恥ずかしいから
あまり見ないでくださいね
ああ
第3話 月の下で
真美ちゃん、どうしたの元気がないよ
何を見ているの
月を見ています
どうして、月を見ているの
お父さん、お母さん・・・・
どうしたの
小さい頃にお父さんと私で
家の庭から月を見ていたの
その頃は今のようにお金には困っていなくて
お母さんがお饅頭をつくってくれたり
みんなで食べながら
楽しく話して楽しかったのを思い出しました
お父さん、お母さん
また、会いたい
どこにいるの、お母さんだっこして
お父さん、おんぶして
泣かないでいいよ
僕がお父さん役をするから
「真美、昨日はちゃんと家の掃除をしたか」
今度はお母さんね
「真美ちゃん、お饅頭は美味しかった」
どう、全部
「はい」
そう言えばいいよ
はい
そうそう
クスクスクス
真美ちゃんが笑った
その笑顔だよ
大きい空襲があって逃げる途中でいなくなったの
帰ってみたら家がなくなっていて
近くに、ううう
どうしたの
弟の健が倒れていて声をかけても
目が覚めないの
健、健、健
何度も叫ぶけど目が覚めないの
でも、もしかしたら
お父さんとお母さんは生きているかもしれない
うううう
きっと生きているよ
真美ちゃん、大丈夫だよ
はい
きっと、お父さんも、お母さんも
同じ月を見ているよ
同じ月のひかりを浴びているよ
そうだよ
はい
よし、真美ちゃん
学校の宿題を手伝ってあげるよ
第4話 海にて
真美ちゃん
近くに海があるでしょ
はい
海に行こう
はい
でも、寒いね
そばにおいで
恥ずかしいです
じゃあ、僕がそばに
ほら
温かいかな
はい
真美ちゃん
僕さ
チューしたことがないんだ
真美ちゃんは
私もないです
じゃあ
チューしていい
駄目です
恥ずかしいです
まあ、そうだね
じゃあ、今度かな
はい
約束だよ
はい
いつかな
18歳くらい
でも、その時は忘れていいます
ええ
クスクスクス
あ、背中がかゆい
どのあたり
背中の真ん中です
後ろからかいてあげるね
ほら、こんな感じ
はい
キャ、やめて下さい
後ろから抱きつくのは
これなら
温かいでしょ
温かいですけど
恥ずかしいです
どうして
今日は恥ずかしいことばかりするのですか
真美ちゃんが好きなんだ
真美ちゃんの髪はきれいだね
後ろにながしてみるね
本当に恥ずかしいから帰ります
そんなに僕のことが嫌い
いえ
それじゃ、いいよね
・・・・・・
何も言わなくなった
もう一度言うよ
そんなに僕のことが嫌い
いえ
じゃあ、鼻にチュ
どうしたの黙って
拓也さんが好きです
しばらく後ろにいるよ
はい、でも恥ずかしいから
数字の100まで数えたら帰りましょう
どういう意味
じゃあ、私が言いますね
1
次は拓也さんが
2
私が
3
拓也さんが
4
ああ、わかったよ
じゃや、いくよ
1
2
3
4
・・・・・99
98
ええ、どうして下にいくの
拓也さんともう少しいたいから
うん、案外、真美ちゃんは積極的だね
拓也さんが恥ずかしがり屋さんだからです
クスクスクス
第5話 幸せな時
真美ちゃん、拓也
あなた達もいい年頃ね
そろそろ結婚したらどう
母さん、突然、結婚と言われてもな
真美ちゃんは真面目で優しいから
あなたには、もったいないくらいだよ
真美ちゃんはどう
拓也さんさえよければ・・・・
うれしいけど
照れるな
じゃやあ、決まりね
ありがとう
はい
村上拓也 20歳
立脇真美 20歳
日取りはどうするかね
そうですね、今月あたりでどうでしょう
ありがとう
拓也さん
私でいいのですか
もちろんだよ
僕が幸せにするよ
ありがとうございます
結婚したら
どこか旅行にでも行きなさい
お父さんがお金はだしてあげるから
父さん、ありがとう
ありがとうございます
よかったね
真美ちゃん
旅行のことだけど
どこか行きたいところがあるかな
温泉に入りたいです
まだ、入ったことがなくて
そうだね
いいね
どこがいいか
後で父さんに聞いておくよ
はい
よかったね
ああ、母さん
第6話 暗雲
トントン
立脇といいます
娘がここで、お世話になったことを聞きまして
今までお世話になりました
大したものはありませんが
お父さん、お母さん
会いたかった
ううう
良かったね
真美ちゃん
はい
真美、心配していたんだぞ
良かったな、真美ちゃん
はい
お父さん、お母さんに会えてうれしい
村上さん、本当に娘がお世話になりました
よく、ここが
わかりましたね
はい、必死で探しましたから
真美、突然だけど
いい話があるんだ
どうしたの
ああ
お前にいい人を紹介しようと思ってな
また、お父さんがその方にお世話になってな
え、お父さん
私は隣にいる拓也さんと
結婚することになっています
立脇さん
そうでしたか
ただ、私の拓也とも結婚することになっていまして
困りました
その方に大変お世話になっていたこともありまして
実はお金に困っている時に
多額のお金を私に貸してくださって
恩があり、どうしても断れないのです
また、その方の子供さんが
大人しくて
自分でお嫁さんを見つけられないみたいで
私のところに相談に来られたのです
困っていたところを助けていただいたこともあり
どうしても、断れなくて
また、その方がとても裕福で
真美にとっても悪い話ではないのです
そういう事情だったのですね
しかし、うちの拓也とも結婚することにもなっているのです
今さら、わかりましたとは言えません
申しわけありませんが
お断りいたします
そこを何とかお願いします
結婚ができなければ
借金が返せず
私達は死を選ばないといけないのです
お父さん
母さん、どうしたもんかね
お願いします
お願いします
私達は生きていけません
母さん、どうしたもんかね
そうですね
真美ちゃんはどうするかな
嫌です
私は拓也さんが好きです
知らない人とは結婚したくありません
僕もだ
真美ちゃんを離さないと約束したよね
覚えているよね
はい
拓也さん、拓也さん
嫌です
真美、本当にすまない
お父さん
仕方ないですよ
真美ちゃん
お父さんとお母さんが死んでもいいのかい
それも嫌です
俺も嫌だよ
真美ちゃん
仕方ないじゃないか
わかりました
立脇さん、今日は泊まっていってください
いえ、相手の方が早く子供に併せたいということで
今日、帰らせていただきます
お父さん、あと一日待ってください
真美、すまんが急いでいるんだ
拓也、送っていくぞ
わかった
拓也さん
そうだ
お父さん、少し待っていて
ああ
拓也さん
これは拓也さんにプレゼントしようと思って
作っていたマスコット人形なの
拓也さんが、いつまでも元気でいられるように
そう思って
ありがとう
拓也さん
泣いているの
真美ちゃん
今度会ったら、川で競争しよう
今度は負けないよ
真美ちゃんに
いっぱい水をかけるから
今まで楽しかったね
回想シーン
拓也さん
あそこまで泳いで競争しましょう
ああ、いいよ
どっちが速いかな
じゃあ、よ~いドン
拓也さんにパシャ
わあ、私が速かった
拓也さんが遅いからですよ
真美ちゃん
僕のお嫁さんになってくれないかな
突然、言われても
恥ずかしいです
それは大丈夫だよ
もう一回
言うよ
僕のお嫁さんになってくれないかな
はい
じゃあ、約束の花をプレゼント
野草を取ってきだんだ
きれいでしょ
はい
真美ちゃんのことは忘れないよ
じゃあ、そろそろ汽車がでるぞ
拓也さん、最後に抱きしめて
拓也さん・・・・離さないでください
真美ちゃん
元気でね
今まで楽しかったね
ありがとう
何かあったら、すぐ行くからね
必ず助けるから
はい、拓也さん
元気でいてください
拓也さん
マスコット人形を持っていてください
元気でいられますように
ありがとう
汽車がゆっくり動き出す
フォオオー
拓也さん・・・
真美ちゃん・・・・
走れ
真美ちゃん・・・・・
拓也さん
もっと、走れ
拓也さん・・・・
真美ちゃん
全力で走れ
拓也さん
行ってしまった・・・・
また、会おう
忘れないよ
第7話 不幸と恐怖
真美、こちらが竹本守男さんだ
竹本です・・・・
ほら、守男
大きな声で挨拶しなさい
はい・・・
竹脇真美です・・・・
お前もだ
はい、お父さん
立脇さん
二人とも、まだ緊張していますから
二人だけにさせましょうか
そうですね
じゃあ、そういうことで緊張せずにな
はい
今度どこか行きますか
はい・・・
それではまたね・・・・
はい・・・・
あああ
母さん、台所から火が
ああ、消すことができない
母さん逃げて
拓也も早く逃げて
ああ、家が燃えちゃった
父さんは
まだ帰って来ていないね
帰ってきた
父さん、火事で家が
なんだと
ああ
今日から
どうして生活していけばいいのか
怪我はなかったか
大丈夫だよ
それなら、良かった
親戚にでもお願いするか
でも、最近付き合いがなかったからな
父さん、どうだった
明日から外で暮らすの
ああ、仕方ないな
寒いだろうな
仕方ないじゃないか
そうだね
とにかく、働いて家を建てないとな
そうだね
よし、頑張るぞ
さすが、父さん
真美、生活はどうだ
お父さん、私は守男さんのことは
好きになれません
好きとか嫌いじゃないんだよ
生活ができるかどうかなんだ
お前は草の根をたべいたと聞いたぞ
また、あの頃に戻りたいのか
いえ
じゃあ、守男さんに尽くせ
はい・・・
真美さん、守男ちゃんは
女性の人と付き合ったことがなくて
いろいろ教えてあげてね
はい
守男さん、どうされましたか
真美さん、僕達は結婚するのですよ
はい・・・
バサ
守男さん
何をされるのですか
やめて下さい
だって、結婚すれば
こんなことをするのでしょ
まだ、結婚していないじゃないですか
そうだよね・・・・
う~ん
お母さん
守男さん、泣かないでください
真美さん
こっちに来なさい
え~ん
お母ちゃん
真美さんと子供を作ろうとしたけど
断られたよ
え~ん
守男ちゃん
よしよし
え~ん
お母ちゃん
う~ん
よしよし
泣かないでいいからね
真美さん
何を考えているの
真美さんは
うちの可愛い守男ちゃんと結婚するのよ
拒んだら
駄目じゃない
守男ちゃんは女の人と経験がないの
あなたが教えてあげないといけないでしょ
守男ちゃん
よしよし、大丈夫よ
お父様
真美さん、うちの守男が泣きついてきたよ
君に行っておかないとな
早く孫をつくってほしいから
頑張ってもらわないと
申しわけありません
もう、抵抗したら駄目だぞ
はい、わかりました
真美さん、料理のひとつもできないのかい
これじゃ、守男ちゃんが美味しい料理を食べることができないじゃない
あんた、料理を作ったことがあるの
申しわけありません
僕たちは婚約者だからね
悪く思わないでね
僕は初めてだから
どうすればいいのかわからないけど
教えてね
はい
拓也さん、辛いです
助けて下さい
おい、新米
年は関係ないんだよ
このくらい持てねえのか
できなければ辞めてもいいんだぞ
いえ、頑張りますので
申しわけありません
わかったら
さっさとしろ
はい
父さん
大丈夫か顔色が悪いぞ
ああ、大丈夫だよ
父さんも年も年だから
しばらく休んだ方がいいんじゃない
大丈夫だ
心配かけてすまない
久しぶりに力仕事をしたからな
父さん
体を壊すよ
拓也には心配をかけるな
母さんも無理しないようにね
ありがとう
真美ちゃん
どうしているだろうな
会って抱きしめたいよ
飛んで行って奪い返したいよ
何もできない
自分が情けない
また、川で遊んだ頃が懐かしい
バシ
何をやっているんだよ
申しわけありません
守男さん
真美さん
拓也さん
助けて下さい
お願いします
第8話 月の下で
真美ちゃん
今、どうしているかな
僕は月のひかりで君を見つめているよ
「拓也さん、うれしかったです」
真美ちゃんが心配だ
無事にしているだろうか
「初めて、優しくしてくださった方」
ちゃんと食事をしているだろうか
「拓也さんと過ごした時はわすれません」
心配でたまらないよ
「拓也さんに会いたいです」
辛い思いをしていないかな
「拓也さん元気にしていらしゃいますか」
でも、大丈夫だよ
「拓也さん、もう限界です」
何かあったら必ず助けにいくからね
「助けて下さい」
真美ちゃん
「拓也さん」
拓也、だいぶお金も貯まったな
小さい家でも建てよう
そうだね
仕事もみんな順調ね
そうだね、母さん
明日、さっそく大工に頼んでみるよ
やったね
拓也、家がだいぶ出来上がったな
そうだね、父さん
あと、一週間もすれば完成するんじゃないか
場所もいい所だね
そうだな
楽しみだな、みんなで美味しい食事をしよう
ああ、そうだな
真美さん
川に行って水を汲んできて
はい
お母様
もう一回、行ってきなさい
はい、お母様
はい、ううう
拓也さん、辛いです
やめて下さい
守男さん
バシ、バシ、バシ
うううう
守男さん、どうされたのですか
ハハハハ
やめて下さい
第9話 再び
父さん、ついに完成したな
母さん、近くに川があるみたいだから
体を洗ってくる
気をつけてね
真美さん
いつもどおり川で水を汲んできなさい
はい
おお、気持ちいいぞ
え
真美さん
拓也さん
本当に拓也さんですか
そうだよ
真美ちゃん
会いたかったよ
どうしてここに
いや、火事で家が燃えて
この近くに小さな家を建てたんだよ
拓也さんに会えてうれしいです
本当にうれしいです
私は嫁いでから
家族から辛い思いをさせられて
夫からは暴力をふるわれ
もう、限界です
そうだったのか
助けにいけるものなら
助けにいくんだけど
真美ちゃんも結婚しているからな
せめて、拓也さん
強く抱きしめて下さい
ああ
拓也さん、ここでたまに会ってもらえませんか
もちろんだよ
真美ちゃんの家の庭の隅の角に
このマスコット人形を置いているから
その時は川で待っているよ
はい、いつも注意しています
拓也さんに早く会いにいけるように
真美ちゃん
待っていたよ
拓也さん
もう離さないでください
わかった
真美ちゃん、愛しているよ
私も、拓也さんを愛しています
真美ちゃん、両親から怪しまれていないかな
はい
でも、長い時間は難しそうです
少しの間だけなら
大丈夫かもしれません
少しの間だけでも
真美ちゃんに会えれば
それでいいよ
ここに座ろう
はい
月のひかりが
きれいだね
はい
川の音も静かだね
拓也さんと
一緒にいる時がなにより幸せです
僕もだよ
仕事をするときも
眠る時も、いつも想っているよ
私も家で辛い思いをした時も
いつも拓也さんのことを想っています
真美ちゃんも辛いな
なんとかならないだろうか
拓也さん
お願いがあるのですが
私といっしょに逃げてもらえませんか
僕の父さんに事情を話して一緒に住もうか
はい
じゃや、明日
この時間に待っているから
二人で逃げよう
第10話 新たなる世界へ
拓也さん
真美ちゃん
よし、行こう
はい
うれしいです
ただ、すぐ見つかるかもしれないけど
それまで、拓也さんの
そばにいることが出来ればいいです
わかった
真美ちゃん、父さんも認めてくれたよ
内緒にするそうだ
良かったです
拓也さん
幸せです
真美さんも
ゆっくりしてもいいからね
はい
お父様
最初から私が認めなければ
真美さんも辛い思いをしなくて
よかったのだけど
いえいえ
あの時は仕方ありませんでしたので
真美ちゃん
今日も仕事に行ってくるね
気をつけていってらっしゃい
ああ、ありがとう
今日はトンネル工事の仕事か
おい、拓也
今日のトンネル工事の仕事は危険だからな
気をつけろ
はい
わかりました、監督
いいか、もう少しでトンネルの入り口を爆破するぞ
はい
ドーン バーン
ああ、痛い
拓也、どうした
ああ
左腕が飛んでいるぞ
すぐに病院に運べ
わかりました
先生、どうですか
監督さんですか
残念ながら
離れた腕をつなげることは無理ですね
そうですか
もう仕事ができないということですね
難しいですね
拓也、悪かった
左手がないと仕事ができないから
これは、ほんの見舞金だ
ありがとうございます・・・
どうしよう、これから
何も仕事ができないじゃないか
僕が働くことができなければ
これから生活していけない
拓也さん
大丈夫ですか
心配です
みんな、ごめんな
左手がなくなってしまったよ
もう仕事ができない
拓也さん、私が働きます
いや、申し訳ないよ
片手じゃ
真美ちゃんを抱くこともできない
いえ、拓也さんが
そばにいてくれるだけで
うれしいです
左手で抱けなかったら
右手で抱いてくださったらいいじゃないですか
私は拓也さんに、ずっとついています
拓也さん、町役場でそうだされてみたらどうですか
どうかな
諦めたら駄目です
わかった、そうしよう
家族の者が左手を失って相談に参りました
お手当などはないでしょうか
そんなもん、あるわけないだろう
俺は、この先、生きていけないのか
そんなことはありません
私が必ず支えていきます
第11話 借金と未知の世界
おい、村上
お前の家を建てるために貸してやった金はどうなった
はい
それが、息子が怪我をして
思うようにお返しすることが出来ません
もうしばらく
待っていただけませんか
ふざけるな
はい
そういえば
お前の家には若い嫁がいたそうだな
ちょっと見せて見ろ
はい
真美さん
どうされましたか
おお、器量のいい女じゃないか
娘を身売りにだせば
いい金になるぞ
いえ、それだけは許してください
そうだよ、父さん
それだけはできないよ
じゃあ、お前たちはどうやって
金を返すのか
年老いた親で働いて返せるのか
なんとかしますので
それだけは
僕が片腕でなんとかします
無理だろう
お前はこれ以上
死ぬのを待つしかないな
残念だがな
わかりました
私は何でもします
そうだ
お嬢さんが頑張ることだな
真美ちゃん
それだけは駄目だよ
仕方ありません
拓也さんのためなら
なんでもします
物わかりのいい娘さんだ
さっそく
今日から都に出発するぞ
わかったか
はい
真美ちゃん
駄目だよ
拓也さん
大丈夫です
働いたお金は返していきますから
返し終わったら
必ず帰ってきます
第12話 遊郭と誘い
あらあら
若くてきれいな子だね
あんたなら人気がでるわよ
この仕事がどんな仕事かわかっているのかい
あんたの名前は今日から華よ
はい
今から
礼儀作法やお仕事について教えるから
ついてきなさい
真美ちゃん
ごめんとしか言いようがないよ
拓也さん
仕事は辛いですけど
大丈夫です
おやおや
旦那
この娘は人気者だよ
あんた、そろそろ借金を返し終わりそうだけど
ここで、しばらく働かないといけないんだよ
どうしてですか
そういう、決まりなんだよ
娘さん
わかりました
それより、拓也さんはどうしていますか
それがわからないんだよ
そういえば
最近見かけなくてな
娘さんに申し訳なくて
死んだんじゃねえか
ええ
拓也さん
そんな
なんでも
そういう噂だぞ
華
この遊郭じゃ人気があってね
実はいい話があるんだよ
いい話とは
長崎の造船会社の社長が
あんたを見て一目惚れしたらしくてね
まだ、詳しくは聞いてはいないんだけど
どうやら妻にしたいって話だよ
本当にいい話じゃないか
ただ、とても残酷で手荒い人みたいだそうだよ
まあ、金には困らなくていい生活ができるじゃないか
咲が割とくわしいみたいだから
聞いてみたらどう
華、女将から聞いたけど
うらやましい話だよ
私は抱かれたことがないけど
かなりの金を持っているそうよ
ただ、他の子の話だと
鬼みたいな人みたいだけど
痛い思いはするかもしれないけど
この世は何もかも金よ
よかったじゃない
拓也さん、怖いです
でも
何より、拓也さん
何処にいらっしゃるのですか
生きていらっしゃるのですか
私は造船会社の妻になります
でも、それより
拓也さんともう会えないのが辛いです
咲さん
どうしたの
私はもう死にたいです
駄目じゃない
前も言ったけど金のために頑張るのよ
いえ
私は愛している人がいます
もう会うことはできないです
そうだね
痛い思いは何とか我慢しても
愛する人以外の妻にはなりたくありません
もう死にたいです
どうすれば死ぬことができますか
ああ、簡単だよ
そこまで言うなら教えてやるよ
ここから一里ほど行ったところに
海の岩が真下にある崖があるから
あそこから
飛び降りれば簡単に死ねるさ
私はそんな馬鹿なことはしないけどね
わかりました
ここですね
高い、怖い、寒いのかな、痛いのかな
でも、もう生きていけません
何度も暴力やいじめを受けられ、辛い思いをしました
助けてくれたのは拓也さんです
拓也さんは優しかった
私にシーツをかけてくれて
楽しいこともいろいろありました
もう、拓也さんのことで頭がいっぱいです
拓也さんなしでは生きていけません
拓也さんともう一度会いたかったです
私が死んでも、どうか拓也さん生きていてください
ヒヒーン、カッタカッタカッタ
華、旦那様である造船会社の社長様が
迎えにいらっしゃったわよ
いやです、いやです
もう、これ以上辛い思いをしたくありません
どうか、ここで死なせてください
華、そんなに社長様の妻になるのが嫌なの
嫌です
もうここで死にます
駄目よ死んだら
いえ、今から飛び降ります
そんなに僕の妻になるのが嫌なのかな
僕はあれから、造船会社に勤めたんだ
左手が使えなかったけど、設計などの実力を認められたこと
前社長の娘さんが誘拐されそうになった時に
たまたま居合わせた僕が逃がしてあげてね
それもあって
社長が引退の時期だったので社長に抜擢されたんだ
そういうことです、真美様
社長は人間的にも素晴らしい方です
真美ちゃん、結婚しよう
もう、辛い思いはさせないよ
ほら、マスコット人形だよ
真美ちゃんの体がボロボロだったら川に行こう
洗い流してあげるよ
また、川で競争するかい
はい
さあ、馬車に乗って下さい
足元をお気をつけて
はい
完
月のひかり 虹のゆきに咲く @kakukamisamaniinori
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