ようこそ新しい世界へ。
ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン
面白い世界を望んで、不可逆へ堕ちて。
人に面白いと思ってもらう為のアイディア
その題材とはなんだっていいのであるが
人間性や個人の感性なんかは最たる例だろう
それが机の上で思い浮かぶものがいれば
特別な経験をして得られるものだってあるが
劇的な経験などそうあるものでもなしに
ならば自分から飛び込めばいいのではないか
なにかに面白さを見出してそこに。
だから僕は、全てに目に写り脳が認識して
己が現実と感じるもの全てに色眼鏡をかけて
普通では見られないような世界を見るんだ。
リアルからの逃避行なのだと人は言うが
僕にとってこれは単なる冒険であり挑戦だ
世界全てを丸ごと変えたその日から
何もかもを面白く見えるようにした僕は
ー結果、日常を失った。
※※※※ ※※※※ ※※※※ ※※※※
外を歩く僕の目に映るのはただの風景だが
何処かしらに面白さを見出してしまうので
酷く奇妙で不気味で歪なものに見える。
車が地上を走っているのだって
人が歩くのだって僕からしたら異常で
空の青さや床の硬さや物音までもが…だ。
こうなることを望んだはずの僕は今
人生の縁今際の際に感じるような絶望を
身に余るような`異常性`を全身で味わい
底知れぬ恐怖だけが僕の中にはあった。
僕は`普通`をなくしてしまっていた
感じ取れる全てに対して無感情でいられない
心の休まる暇というものがまるで存在しない
求めていた刺激が日常になってしまった今
僕の心は`刺激の無い刺激`をのみ欲している
もはや戻し方すら忘れてしまった`異常性`
道が道と思えず人が人に見えずにいて
聞こえる音は面白くって目に映る色は奇妙
普通を探す…普通を求める…普通だけを。
変なのは嫌だ面白いのはもうたくさんだ
見て笑えない、感情の湧かない何かが欲しい
こんな非日常の連続はいらない、欲しくない
望んだのは、こんなものなんかじゃないんだ
こんな訳の分からないものではなくて例えば
僕の前を歩いている様な平凡な女の子の様に
見ても印象に残らない、ああいうのがー
なんだって…?
今自分はなんて思ったんだ?
何も印象に残らないって…思ったんだ?
全てに対して多大な刺激を受ける僕が
…何も感情が湧かなかっただって?
気が付いたら走り出していた
奇妙でしかない世界にたった1人の女の子
彼女はまるで…昔毎日見ていた風景のように
とっても`普通`に感じられたのだから。
「あのっ」
「きゃあぁぁぁっ!?!?!?」
勢いよく駆け寄って肩をつかんだのだが
彼女にとっては相当な衝撃だったらしく
肩をビクッと跳ねらせると同時に
ー叫ばれてしまった。
でも、その叫び声は…刺激的ではなかった
まるで存在しないみたいに希薄だったんだ
綿あめを体重計に乗せ針が動かないのと同じ
耳が痛くも声がうるさくも驚きも
全くのノーリアクションでいられたのだ
あれほどまでに叫ばれたというのに
…ちっとも何も感じなかった。
「な…な…なんでっ!?さわ…さわっ
見え…?え、ええええっ!?!!?」
現在進行形で、叫ぶことをやめない彼女に
やっぱり何も思うことの無い自分に対し
ついに、頭がおかしくなってしまったのかと
刺激を受け続けた結果感性が欠落してしまい
もう何も思うことが無くなったのかと
そう思ったのだが…どうやら違うみたいだ。
相変わらず車の走行音や吹く風の音
それらには今までと同じように異常性しか
それしか感じることが出来ないと言うのに。
「あの!もっと叫んで貰えませんか!?」
「へ?」
見てもやはり印象に残らないどころか
今確かにこうして目にして触れているのに
感触も温度もどんな顔でどんな髪型か
それすらも思い出すことが出来ないのだ
まるでそこに存在していないかのように。
「…あの、なんで私の事…見えて…」
「あのすみませんがなんて言ってますか?
何かを言われたのは分かるんですがその
中身まで理解することが出来ないんです
まるで聞こえてないみたいなんです、声が」
さっきは叫び声だったから分からなかったが
きっとこの`彼女`は今喋っているのだろう
それなのに言葉が何ひとつとして聞こえて…
いや違う、中身を認識できないのだ。
「あ、あの…て、手をにぎにぎするのはっ…
は、離してもらえないですか…?」
「何か言いましたね!?今なにか…
手ですか?手を…なんて言いましたか!?」
きっと今僕が掴んでいるこの手について
触っているのに何も感じないこの手について
今彼女は話していたに違いない。
知りたいこの人のいや、この現象の理由を
そうすればこの状態をなんとか出来るかも
「あの…ほんとに…!や、やめ…
くくく…くすぐったい…ですっ!
あのその…かっかゆ…あぁっ!」
嫌がっているのか…?喜んでいるのか?
そのどっちかなような気がしてならない
普通に考えて手をいきなり握られたなら
当然に嫌がるはずなのに何故かその二択だ。
ただの偶然か自意識過剰なのか不明だが
僕が知っている人間の当たり前の感情を
そのまま正しく認識できたのは久しぶりだ
…もっと探らなくては!
「や、やめ離して…うぅぅ…
は、離してくださいっ!!!」
「あっごめんなさ…あれ…?言葉が…」
「なんなんですかあなたっ
なんで触れられるんですかっ!?
あなた生きていますよね?息してますよね?
それなのになんで見えて触れるんですか!?」
言葉に聞こえたのは一瞬だけで、今は
何となく怒られていることしか分からない
「言葉の意味が…理解できないんです
怒っていることだけは認識出来ますがその
内容まで理解することは、出来ないんです。」
とてもこの説明じゃ伝わらないと思うが
この言い方しか出来ないので、仕方ない。
そもそもこっちの言ったことがこの女の子に
届いているのかすら僕では認識できないが
…戸惑いが感じ取れた。
「あなた…人ですか?それとも
いやでも肉体があった訳ですし…息もしてる
す、すみませんもう一度手を握っ」
「手ですね!?」
「うぇっ!?…あ、は、はいっ!」
今のは何とか、理解することに成功した
私の手を掴めと、言われたような気がし
それはほんの微かなものでしか無かったが
久しく、人から感じられた普通の感情を
この僕が見逃すわけがなかった。
「やっぱり触れるんですねこれって…
お、男の人の…手なんて…初めて…」
「あの今もしかして照れていますか?」
「はっ!?い、いやその…あ、あのっ」
「今照れてますね!?」
何となく感情は読み取れるようになってきた
今この子は確かに照れているのを感じる
女の子に照れてもらえるなんて嬉しい限りだ
そんなの物語の中だけの幻想だと思ってた。
もう一度照れていますかと聞こうかと
そう思って口を開きかけていたのだが
…でも僕は薄々感じているひとつの
とある可能性について口にしてみたのだ
「…あなたは人ですか?」
「いいえ違いますよ人じゃないです」
「あなたは女の子ですか?」
「…じょ、女性ですっ!女の子じゃ…その
一応これでも120年存在してるんです!!」
「120年だって!?…あ、あれ言葉が聞こえ…
あのもう一度何か…何か言ってください」
「その女の子って子供扱いは…」
「やっぱりだぁ!聞こえる…言葉が…
人の言葉が聞こえるようになってる!」
「うわぁっ…あの…落ち着いて…」
掴んでいる手をブンブンと振り回しながら
まともに会話ができるここ最近で唯一の
目の前の120年生きていると言った`女性`を
その容姿がうっすらと見えてきたような。
そんな気がしてきていた。
「髪の毛…黒ですね?黒色ですね?」
「え?…黒…ですけど」
「髪の毛短くて…背は小さくて…
体も…小さい…?」
「ばっ…バカにしてるんですか!?」
「あなたってなんなんですか?
この`異常性`しかない世界の中で
どうして貴方だけ普通に見えたんですか?」
こんなの聞いたってこの子が分かるわけない
また怒られてしまうんだろうなと思って
若干身構えたのだが…
「…いま…なんとおっしゃいました?」
僕はそんなことを聞いてくる彼女に
もうすっかり意思疎通が出来るようになったまだ若干顔が分からない彼女に対して
…懺悔するかのように語り始めた。
「僕の目に写ったり感じたりするのは
信じられないでしょうけど…この世の物では
今まで普通に見てきたもの全てがある日突然
全く別のものにしか思えなくなったんです
それが何年も続いていてそんな中で
あなただけがその刺激が無かったんです
…これは一体…?」
「…ひょっとして…?あの例えば…
あそこにある建物ってどう見えますか?」
「とても人が住めるような形はしてないのに
窓や洗濯物が干してあって…虹色です
まるで空中に浮いているように見えます」
「…やっぱり…あなた…」
彼女は何かを考え込むような仕草をして
…仕草までわかるようになってきている。
「あの、お気付きでないようなので
その、私の方からあなたの状態について
ひとつの答えを述べておこうかと思います。」
「なんですか?もしかして…何か秘密が?」
彼女はまるで言いたくなさそうな顔で
ついに読み取れるようになった表情では
そんなふうに見えていた。
「あなた、世界を跨ぎかけています
本来踏み越えられないはずの境界線を
そのせいできっと、感覚が変なんです
前に同じような事例を私、書物で見ました」
嘘をついている様子はなかった
今の僕のこの状態について彼女は
とても信じられないようなことを言ったが
そもそも今が信じられない状態なので僕は
僕はその言葉に酷く納得していた
疑問すら持たずすんなりと受け入れていた。
「あなたはこのままだと…死んでしまいます
あなたが今生きているのは狭間なんです
人間は本来入り込めない空間なんです
同じ次元に存在している別の世界
あなたの見えているものはこの世界のものと
私の生きている世界の物とが混ざってます
例えば風が吹いたら…それがただ風だと
そうやって認識することは出来ますか?」
「…いいえ」
「…やはり」
「今ならまだ戻る方法はあります
世界を踏み越えを正して元に戻せます
そうすればまた元の生活に戻りますよ」
苦痛でしか無かったこの数年間で
もはや人が人かどうかすら分からなくて
何もかもを捨てて生きてきたこの僕には
彼女の今の提案はものすごく魅力的だった
なぜなら元の人生に戻れるのだから
`面白さ`を当たり前に求める元の生活へ
…空さそれが僕の1番の希望だったはずだ。
いつかきっとこの悪夢は終わるはずだから
それを目標にして生きようと何年も過ぎて
食べものを何とか食いつないできて生き
その解決策が今目の前にあるのだ。
目の前の女性が知っているのだと
教えてくれるとそう言っているのに
そう言ってくれているというのに僕は。
「…あの、踏み越えるのは、ダメですか?」
「えっ?」
「世界を跨ぎかけていますと言いました
…なら、跨ぐのは出来ないんですか?」
こんなことを聞いてしまっている
今なお彼女の顔はとても認識できない。
「ほんきで言っていますか?
戻れないんですよ?家族とかにも友達にも
もしたら恋人にももう、会えないんですよ?」
「僕はこうなる前普通を嫌っていました
何か面白い事が起きて欲しいと常日頃
それがイザこんなことになって後悔しました
きっと僕が変なことを願ったからそのせいと
でも、今になって分かったんです
やっぱり僕はあの元の退屈な世界に
ー戻りたくなんかない!」
強く引き裂くかのような声で
僕はそう叫んでいた。
「…そう…ですか、それほどに…あなたは」
「分かりました…本当に良いんですね?
未知の世界ですよ?何もかも概念すらも
あなたの常識とはかけ離れたものですよ?」
「良いんですそれでも僕は
この異常性を知ってしまったからには
もうあの平凡な日常には戻れません」
「…そのように仰るのでしたら止めません
それに貴方は既に境界線には居ないようです
でしたらもう後はほんのひと押しです
…最後に聞きます、本当に…良いんですね」
「いいんです」
「…分かりましたでは目を閉じて下さい」
「3つこれから数えます
そうしたら…今だ!というタイミングで
目を思いっきり開けてくださいそれで
…それであなたは移行します。」
「あなたは一緒ですか?その時」
「責任をもって面倒を見ます
その…手…握って貰えましたし…あの
私達の世界ではその、手を握るというのは
1種のプロポーズとして扱われるんですよ」
「そうなんですか…それであの時は
なんだか嬉しそうにしてたんですね」
「その…いいお相手がいなかったから…つい
でも!知らなかったのなら仕方ないです
あのことは綺麗さっぱり水に流しましょう
ほら早く目を閉じて頂いて…」
彼女が言うには3っつ数えて目を開ける
それだけで全ては移り変わりを果たして
僕のこの生きてきた世界とはさようなら
もう二度と戻れないのだと彼女はいうが。
既に何年もこの刺激溢れる世界で
こうして生きてきた僕にとっては
もはや元が何なのかすら思い出せない
それに元の人生に戻れるとはとても思えない
働いていた会社は無断で行くのを辞めたし
アパートも勝手に出てきてしまったのだ。
とてもまともには生きられないだろう
それであるならば…僕は。
未知の世界に足を踏み入れてしまって
いっそこの世界から姿を消してしまおう
そうすればきっと何かが変わるはずだから。
ー目を閉じた
思い出すのは家族の顔…ではなかった
もう何も元の姿の記憶はおもいだせない
ー1秒
仲の良かった友人や好きだった子
何もかももはや思い出せなかった
写真を見ても別のものに見えるのだから。
ー2秒
さぁ次で最後だもう未練は何もない
新しい世界へと旅立とうじゃないか
この先に何が待ち受けていたとしても僕は…
ー3秒
…………
…………
…………
…………
…………
……………
………………
ー今だ
「ーようこそ死後の世界へ
あなたという人間は、死にました。」
得たものは`死`という名の不可逆
もう二度と失って生命は戻ることがない
普通を認めなかった僕は、この僕は安易に
取り返しのつかない世界に来てしまった
ー僕という人間は死後の世界にやってきた
ようこそ新しい世界へ。 ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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