最終話 二つの花と蝶

優一さん

どうして

明日から入院なの

なんとか言って下さい


ああ

すぐ退院できるよ・・・


先生


優一さん



延命治療をされますか

長く苦しんで自宅に帰れないかもしれませんが


短い命ですが痛みを止めて自宅で過ごされたらどうでしょうか


先生

そうします


加奈さんには伝えますか

どうされますか


それは言うことはできません


そうですね


加奈さん

明日には退院だよ


本当ですか


ああ


どうしたのですか

元気がないですよ


加奈さん

頭痛はしない


はい


でも、なんだか

ずっと頭が

ボーっとするの

立ち上がるのが精いっぱいなの

最近は目の前があまり見えなくて


きっと元気な子供は産めますよね


ああ


優一さん

ご飯を作ってあげられなくて

ごめんなさい


いや、いいんだよ


僕も意外と上手なんだ


ほら

口を開けて


はい


美味しいかな


はい


優一さん


手をつないでもらえますか


ああ


幸せです

よかったです

お父様が結婚を賛成してくれて

どうして黙っているのですか

うれしいのですね


そうだね・・・


優一さん・・・

私の事はわかっていますから

大丈夫ですよ


加奈さん・・・


今日はとても体が軽いです

明日は思い出の場所へ行ってみたいです


そうだね、体調次第かな


はい



翌日


優一さん

今日は少し重いようです

体が思うように動かないです

目がほとんど見えません

優一さんの顔を

よくみることができなくて残念です


大丈夫だよ

僕がそばについてあげるよ

加奈さんの目になってあげるよ


はい、ありがとうございます


そばにいるだけでいいよ

加奈さん、どこに行ってみる


優一さんと過ごした古い家に行ってみたいです


着いたよ


優一さんここで

私の手料理たべたことを覚えていらっしゃいますか


うん、覚えているよ


すごい豪華だったね


もう少ししたら

また作ってあげますからね


でも・・・もう一度だけでも


可愛い子供の声が聞こえますよ

ほら

本当はあの料理の材料は

お父様から以前いただいていたお金で買ったの

優一さんがお父様のことをよく思っていないから

内緒で買ったの

ごめんなさい


そんなことないよ

誰のお金であろうと

加奈さんが作った料理が最高に美味しいよ


本当ですか


ああ


家には誰か住んでいるのね

子供の声が聞こえる


優一さん

子供を産んであげられなくて

ごめんなさい


加奈さん・・・

加奈さんがいるだけで幸せだよ


本当ですか


ああ


そろそろ行こうか


優一さん

何か忘れていませんか

大丈夫、わかっているよ



お父さん

先程お願いしましたとおり


ああ、準備はできたよ

優一さん


加奈

わしは用ができて東京に帰らないといけない

ごめんな


お父様

お父様も来ていたの


ああ

ちょっと用事があったついでにな

加奈は可愛いな

顔をよく見せてくれ


いろいろご迷惑をおかけしてごめんなさい

長生きしてくださいね

今までありがとうございました


・・・・・・・・・


頭がボーとして前がよく見えないの


加奈さん、今から式をあげよう

神父さん以外は僕と加奈さんの二人だけだよ

加奈さん、ここはどこかわかるかな


見なくてもわかります

潮の香りがします

楽しかったから

あの時の海ですね


ああ


岩場から優一さんが後ろから押して

私は落ちたじゃないですか

鼻に海水が入って痛かったです

そう言ってたね


でも、もう痛くないよ


岩から落ちた上の丘に

高い丘があっただろ

そこ式場があるんだ

ここから上まで螺旋階段になっているんだ

神父さんが、ちゃんと式の会場まで

作ってくださったんだ

道の両脇は花だらけだよ

ゆっくりでいいから歩いていこう

僕が支えてあげるよ


はい


見える


はい


優一さん岩場の上に花をなげてくださる人達が

大勢いますね


運転手の宮田さん

商店のおばちゃん

松下さん

こわそうな佐藤さん

優一さんのお母さんもきている

山田シェフもきてる

本当に大勢の人達がきてますね

ルリも祝福しにきてくれてる

お母様はやっぱり来てくれないのかな・・・・

みなさん、

後ろの席に座ってくれた

すぐ後ろですね



そうだね・・・

ほら、神父さんがきて

鐘がなるよ



カラーンカラーン


中村優一は

瀬波加奈を愛しますか


はい


瀬波加奈は中村優一を愛しますか


はい


ふたりは永遠に愛しますね


はい


お父様

ありがとうございます


加奈

おめでとう


加奈さん結婚指輪だよ

ありがとうございます


永久に指から話しません

突然だれも・いなくなり・ました・・・・

優一さん、やっと二人っきりになれました・・・・


うん、そうだね・・・・・



ゆりかごの歌を


カナリアが歌うよ


ねんねこ


ねんねこよ~



あ、お母様


おめでとう、加奈


ありがとう、お母様

やっぱり来てくださったのね


おんぶはできないから

抱きしめてあげるよ

おめでとう

お二人とも幸せにね


お母様・・・

ありがとう

ありがとうございます


そうだ

海でさ

海でほっぺにチューしたの

覚えている


・・・・・・


あっちむいてホイをしよう

今度は首を動かさなくていいよ

口にキスしちゃった

ごめんね


ありがとうござい・ます

加奈さん・・・

丘の上の岩場から・ふたりで・・

海に飛び込もうと約束をしたのを覚えている


はい

覚えています


ふたりで飛びこもう


はい・・


優一さんと出会えてよかったです・・・・


加奈さん、ありがとう


約束だったからね

じゃあ、飛び込むよ



ほら






おはよう


おはようございます

優一さん


やっと二人になれたね

いえ

三人ですよ






海水浴は楽しいね


お母さん

ほら

岩場のそばに

小さな綺麗な二つの花に蝶が一匹とまっているよ


本当ね


あら

しあわせそうね


うん




優一さん


加奈さん


幸せだね


はい





END




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