クセになる味④
「翔平!竜くん!ここにいたのか!……よかった……よかった……」
翔平は父親に抱きしめられていた。朝日が昇り、あたりは明るくなっている。横には仰向けで目を瞑る竜の姿。胸が上下に動いており、死んではいないようだ。
父親の話によれば、朝になって翔平と竜を起こしに二階に行ったが、布団には二人ともいなかった。家族総出で探したところ、音無寺の門の前で横たわる二人を見つけたとのこと。
翔平には、坊主頭が無数の人影に襲われた後の記憶がない。気づいたら門の前にいた。竜が運んでくれたのかもしれないと思ったが、目覚めた竜に聞いても「何も覚えていない」と言っていた。
その日のうちに、音無寺の僧侶が死体となって発見された。墓場で大の字になって仰向けに倒れており、死因は窒息死。口と喉の中から大量の人骨が見つかった。
翔平が坊主の訃報を聞いたのは、あの一件から数日経って、東京に戻ってきたからのことだった。もうあんな体験は二度としたくないと思った。
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祖父の一周忌を迎え、また音無寺へ行くことになった翔平。僧侶は坊主頭の息子に引き継がれたそうで、翔平は少し安心した。あの坊主頭の顔さえ見なければ、記憶はフラッシュバックしない。それに坊主頭は死んだのだから、もう思い出すトリガーはない。
音無寺についてすぐ僧侶の読経に入ったため、翔平には親戚と話す時間がなかった。その場には竜もいた。ちょうど一年振りに会うので、少しの時間だけでも話したかった。
読経と説法、墓参りが終わり、食事の会場へバスで移動することになった。バスが来るまでの時間、翔平は竜と話そうと思ったが、姿が見当たらない。
叔母に竜の居場所を聞いたところ、まだお墓に残っているとのこと。翔平は墓場へ小走りで向かった。
大鳳寺さんの墓石。その左へ墓石十個ほど進むと大川家の墓がある。翔平はあの日のことを少し思い出しかけた。
大川家の墓の前へ進む。そこには地面に膝をつき、前屈みになる竜がいた。
「竜くん、どうしたの?お腹痛い?」
竜はうずくまりながら、翔平の方にバッと顔を向けた。口元は土まみれになり、バリバリと何かを貪っている。
「翔平、骨食う?うまいぞ。」
<完>
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