拳銃で幽霊は殺せるのか②
「弾は当たらないけど、殺せる……?それって殺せてなくないですか?」
「そもそも幽霊ってのはなぜ生まれると思う?」
片山の問いに、飯田は三秒ほど考えて答える
「未練があるから、ですかね?テレビで見たことがありますよ。」
「そういうのもいると思うが、ほとんどの理由が『自分が死んだことに気づいていないから』なんだ。魂が『今も生きている』と強く思い込んでいるから、この世に留まり、幽霊となる。」
飯田は話半分で聞いていた。元々、片山は理想の警察官とはかけ離れた存在だ。勝手に拳銃を撃つだけでなく、ヤクザ顔負けの態度で一般人に職質したり、パトカーに乗っているのを良いことに交通違反をしたりと、やりたい放題。息を吐くように嘘もつく。この話だって、どこまで信じて良いものやら。
少し興味を失いかけている飯田をよそに、片山は続ける。
「幽霊にとっての死は、この世からの成仏。つまり『自分は死んでしまったのだ』と理解させ、この世に留まる理由を奪えれば、幽霊を殺せるんだよ。」
「なるほど……じゃあ拳銃はハッタリですか。」
「そう。幽霊といえど元は人間。銃を向けられればビビるし、体に向けて撃たれれば死んだと思い込む。それで成仏させられるってわけさ。少なくとも、俺がこれまでに撃った七体の幽霊は全部消え去った。」
「先輩は町の幽霊を駆除して回ってるってことですか、拳銃で。なんか少年マンガみたいですね。」
「勘違いするなよ。幽霊を皆殺しにしたいわけじゃない。悪いことをしている幽霊だけ始末するのさ。警察の職務に則って。」
「よく言いますね。」
「飯田、お前も覚えておけ。オレは怪奇町に来て三年になるが、この町は幽霊に関する事件が多い。異常なほどだ。オレだけでなく、お前も幽霊と出会う時が来るかもしれん。」
「生憎、僕には先輩のような霊感は全くないので……先輩に全部お任せしますよ。」
「けっ!若造が。少しは先輩の仕事を引き継げよ。」
片山は始末書の作成を急いだ。早くしないと小池部長が戻ってきて、また叱られる。
慌ててペンを走らせる片山の後ろで、飯田が「あっ」と声を漏らした。
「じゃあ先輩、怪奇駅前にあるビジネスホテルの話、知ってます?『ネバーホテル』っていうところなんですけど。」
「ネバーホテル……ああ、あのボロいホテルか、知ってる知ってる。あそこがどうした?」
「心霊スポット好きな友人から聞いたんですけど、そこの四◯七号室は幽霊が出る部屋だったらしいんですよ。泊まったらやばい部屋だそうで。」
「へぇ……『だった』ってことは、今はもう出ないのか?」
「いえ、あまりにも宿泊客の失踪が多いので、五年前に部屋が封鎖されてしまったんです。中がどうなっているのか、現状はわからないみたいですね。ただ、部屋自体は今もあるそうですよ。封鎖される前は『宿泊したら二十四時間以内に死ぬ部屋』って呼ばれていたとか。」
片山はペンを握ったままの右手を顎につけた。
「ほーん。封鎖されたのは俺が怪奇町に来る前の話だな。だから知らなかったのか。」
「それにオカルトマニアの間でしか出回ってない情報なんで、知らなくても無理ないですよ。でも、もしその部屋に入れたとしたら、先輩は幽霊を殺したいって思うのかなと気になって……」
片山は椅子から立ち上がり、深妙な表情で交番の入口近くまで二歩進んだ。
「……面白い!何人もの宿泊客が犠牲になっているほど強力な幽霊!そいつを殺せば、オレにも箔と自信がつきそうだ。飯田、明日お前非番だったよな?俺と代われ。明日、ネバーホテルに泊まって四◯七号室の幽霊を仕留める。」
「ええっ!?そんな急に……第一、部屋は封鎖されてるんですよ!それに拳銃だって、非番じゃ持ち歩けないでしょう?」
片山は飯田にドヤ顔を向ける。
「この片山様を舐めるなよ。オレはセンサー式の鍵以外ならピッキングで開けられる。古いホテルだ、南京錠やサムターン式の鍵を使ってるだろうから侵入は容易い。昔、
この汚職警官め、と飯田は心の中で呆れ果てた。
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