夏休みの宿題
夏休みの宿題①
「うちのママさぁ、ホントわけわからないこと突然言うんだよねー。マジウザいっていうか、早く墓に入れって感じ。」
一度喋り出すと止まらないのは、出席番号二十七番の
「はい!お前菌ついたー!早くしないとどんどん雑菌が増えて死ぬぞー!ギャハハハハ!」
出席番号六番、
「みんな静かに!帰りの会終わらないよ!早く帰りたいでしょう?」
「先生、早く指揮してくれません?子供の面倒もろくに見られない教師なんて、どうなんですかー?僕、失格だと思うんですけど、。」
出席番号十二番、
それでも、郁美は子供たちを頭ごなしに叱らない。大声で怒鳴ることもない。これが郁美の教師としてのポリシーだった。
郁美は小学五年生のころ、担任の男性教諭にひどく叱られたことがある。宿題をやってくるのを忘れただけで、クラス全員の前で泣くまで怒鳴られた。この記憶は、大学を卒業し、教師になって2年以上経った今でも染みついている。とても嫌な思い出だ。
郁美は、当時の男性教諭のような指導はしたくなかった。だから子供たちを叱らないように注意しながら授業をしていた。その結果が、今の四年一組だ。子供たちは教師を完全に舐めており、郁美はそのターゲットになってしまった。
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誰も聞いていないであろう帰りの会を終わらせ、郁美は職員室に戻ってきた。これから、子供たちがやってきた夏休みの宿題をチェックしなければならない。35人分。かなりのハードワークになることが予想された。
まずは「絵日記」から見ていく。子供たちが夏休みにどんな生活を送っていたか知る重要な宿題だ。特に素行の悪い四年一組の児童たちは、夏休みに問題行動を起こしていないか、郁美は気がかりだった。
ほとんどの児童が白紙のまま提出していた。書いてある子も「暑かった」「何もすることがなかった」など一言しか書いておらず、日記とは言えない。これには流石の郁美も怒りが込み上げてきた……でも叱れない。叱るとあの記憶がフラッシュバックする。絶対に叱りたくない。
ただ一人だけ、絵日記をきちんと書いてきた子がいた。出席番号十八番、
アキラの絵日記を読み進めるうちに、気になる内容が郁美の目に留まった。
「七月二十九日。今日は右の奥歯を一本抜きました。抜けたのではなく自分で抜いたのです。大人の歯です。少し歯ぐきがついていました。これを庭にうめてみます。毎日、水とひ料をあげます。どうなるか楽しみです。」
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