殺し(部)屋④
ネバーホテル四階。ケータイで電話をしている男がエレベーターから降りた。
「恐らく、始末は完了してるかと……ええ、ええ……それにしてもさすがボスだ。有能な部下でも敵に回すくらいなら自ら殺す。その非道さ、群雄割拠の裏社会でのし上がっただけあります。」
男は廊下を歩き、四○七号室の前で止まった。
「FOXが他の組織から引き抜きの話を受けてたことは間違いありません……ええ、あれほどの男が敵対組織に移ったら、どれほどの脅威になることか。」
男は四○七号室のドアノブを握った。鍵はかかっていない。中に入り、扉の鍵を閉めた。
「俺じゃFOXに敵いませんからね。イモムシがライオンにケンカ売るようなもんですよ……ええ、今から確認します。と言ってもこの部屋は、殺したっていう痕跡が残らないから良いんですけどね。」
男は机の下、ベッドの下などを調べて回る。
「ボス……これで俺のミス、チャラになります?……もう許してくれてもいいじゃないですか!仕方なかったんだ!あのヤクの売人の女、殺し屋を警戒して四○七号室を別の客に譲ってた!宿泊寸前のロビーで!同じような背格好の女に!だから間違えて殺しちまって……はい……すみません、取り乱しました。とにかくFOXという脅威が消えたんです。俺への報酬も、よろしくお願いしますよ。」
男はケータイを切り、大きく息を吸った。
「しかしまぁ、この部屋、役に立ってくれるぜ。『宿泊したら三日以内に死ぬ部屋』。組織内の危険人物はこの部屋に泊めて消す。元はと言えば俺のミスだが、こんな有意義な部屋ができたんだ、ボスにも少しは感謝してもらいたいところだな。」
男はバスルームを確認していないことに気づいた。万が一FOXが生きていたら、自分がとどめを刺さなければならない。
バスルームの扉を開けた。正面にあるトイレの便座に、脳天をボールペンで突き刺され、顔から腹部にかけて血まみれの死体が座っていた。
「……こ、これは……カナ・ヤジマ……?」
男は首の後ろに何者かの息遣いを感じた。
「……幽霊になれば幽霊も殺せる……面白いことを知ったよ……『宿泊したら三日以内に死ぬ部屋』か……俺なら三日もかからない……」
この日以来、伝説の殺し屋FOXは裏社会から姿を消した。同時に、怪奇町駅前「ネバーホテル」に『宿泊したら二十四時間以内に死ぬ部屋』が誕生した。
<終>
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