第9話 鬼人 対 百足
鬼人が跳躍し、百足に向かって肉薄する。
投げ放った
鉄板が破裂したかのような音があたりに響き渡る。
その場で身体を反らし両の脚で百足を蹴り、勢いよく地上に着地する。
砂煙を上げながら四肢を巧みにに使い、受け身を取り百足に目を向けた。
百足の甲殻には傷一つ付いておらず、それ所かこちらを嘲笑っている。
まるで今から獲物を弄ぶとでも言うように歪んだ顔で舌なめずりをしていた。
そうして百足の身体が一瞬硬直し始める。
次の瞬間、百足の身体が一本の巨大な紐のようにしなりこちらに向かってきた。
右に、左に、さらには飛び跳ね、でたらめに進んでいるせいか百足の身体が黒い津波となって鬼人に襲い掛かってきたのだ。
鬼人は前へと跳び、百足の身体の隙間を上へ下へと滑り込みながら回避する。
そうして、百足の攻撃をすり抜け後ろを振り向く。
百足の体当たりによってさらに木々が倒れひどい惨状になっていた。
あの百足の甲殻によってこちらの攻撃は効いておらず、勝負が長引くと周りへの被害が広がるばかり。
鬼人は百足の顏を睨みつけ、不敵に笑う。
そうして先ほどまで跳びやすいように前傾姿勢となっていた鬼人が立ち上がり仁王立ちとなる。
そんな鬼人を気にもせずに百足が身体をうねらせ突っ込んできた。
先ほどとは違い鬼人は動かない。
迫りくる圧倒的質量の津波にびくともせず、睨みつけている。
そうして、百足の身体が目の前に迫りくる瞬間、身体を縮め瞬時に開放する。
身体はその場に弾かれたかのように飛び跳ね、体当たりの直撃を避けたのだ。
そうして、鬼人は百足の背中にとりついた。
百足の身体は何枚もの甲殻が敷き詰められ、体中を覆っている。
その内の一枚の甲殻の境目に手をかける。
万力の如く力が甲殻に込められ、引っぺがされる。
その様子を感じ取った百足は鬼人を振り落とさんと激しく暴れまわった。
右へ左へと暴れまわりたまらず振り落とされそうになる。
振り落とされないように手の指に力を籠め、甲殻を剥がした百足の身体に突き立てる。
その瞬間、百足が絶叫し動きがさらに激しくなる。
百足の動きにかまわず手をさらに奥へと突き立てると手に違和感か生じる。
指先になにかが当たっているのだ。
それは手のひらに収まる太さで、ゴツゴツとした突起が感じ取られる。
それの正体に気付き、鬼人は驚きのあまり声が出る。
「背骨か!?」
百足は節足動物でその強靭な固い殻によって身体を支えている。
あろうことかこの巨大な百足はそれらに分類されているというのに骨を持ち合わせていた。
そのちぐはぐで不気味な身体を再度認識し、冷や汗が身体から吹き出る。
鬼人は唸り声を上げながら百足の背骨を握りしめ、一息に引っ張り出す。
引っ張り出された背骨はまるで
骨と腕には緑色の体液がべっとりとついており鬼人は顔を歪める。
背骨を引き抜かれた百足は数度、痙攣すると地に伏し動かなくなった。
百足の顏の前に立ち見下ろすと百足が口を開く。
「なぜ……混ざり物とは言え、なぜ……人間の味方なぞするのだ……」
「人間の味方なぞしていない。お前と一緒だ」
鬼人の言葉を理解できずに百足は聞き返す。
先ほどの傲慢な態度が一変し、どこか穏やかな様子に見える。
「お前は自分の道楽で命を奪った。私はお前が気に食わないから殺しただけだ。そこに違いはないのだ、百足よ」
「ヒヒヒヒ……、混ざり物のお前が、我と一緒? 最後の最後まで滑稽なや……つ…………」
そう一言いうと百足はピクリとも動かなくなる。
百足に背を向けその場から立ち去りながら百足の言葉を思い出していた。
混ざり物……。
人ならざるものは匂いや見た目で、鬼人が人と鬼の間に生まれたとわかるようだった。
人と共に生きることもかなわず、妖や魔物としても生きてはいけず。
鬼人は自分が誰なのか二百年という長い時間を生きていても答えが出せずにいた……
鬼人は寄り添うのみ えちだん @etidan
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