第8話 百足に問う

 百足はその場にとどまり、蜷局とぐろのように動き回っていた。

折られた木々が押しやられて壁となり、円を描くようにポッカリと開けている。

その中央に我が物顔で鎮座している百足が一匹いる。

ウゾウゾと動く無数の足が不気味に思え、ブルりと体を震わせる。

鬼人は百足の前に降り立つと、百足の顔を見上げながら話しかけた。


「この山に何をしに来たのだ!? この場所は人の街に近い! 即刻立ち去れ!」


その言葉を聞くと百足はこちらに振り向き首をかしげる。

こちらに疑問を覚えしばらくするとその疑問が晴れたとでも言うように笑い始めた。

その笑い方はまるで鬼人に対して侮蔑の感情によるものだとわかる。


「ヒヒヒヒ! お前、混ざりものか? こいつぁ驚いた! 思えの様な奴は初めて見たぞ!」


「だまれ! ここにお前のようなものを受け入れられる場所はない! 立ち去れと言っているのだ!」


 その言葉を聞くと百足はまたもや笑い始める。

先ほどよりもおかしいのか笑い声が激しくなっている。


「フヒハハハハ!! 俺様が受け入れられない? フヒャハハハハ!!!!」


「何がおかしい!!」


「あぁ、おかしいとも! 人にもなれず、我々のようにもなれず! 貴様は何者だ? 何者でもない! 何者でもない出来損ないの貴様こそ誰にも受け入れられるはずもなかろう!」


 ひとしきり笑いながら百足にそう言われ、鬼人は言葉が詰まる。

そんな鬼人を見透かすが如く、百足はさらに言葉を重ねる。


「さて、なぜここに来たのかだったか? そんなもんあるわけがないだろう! 強いて言えばただの暇つぶしだ! 木々を引き倒すときの悲鳴を聞くのは楽しいが、些か飽きてきた。 次は人里に降り、人間どもの悲鳴と肉を食らうのよ!」


「暇つぶし……?」


 こいつは何を言っているのだ? 暇つぶしだと?

暇つぶしでこれだけのことをやったのか?

足元には木の破片が転がっている。

百足の言葉に唖然となっていると、鬼人の頭に先ほどの言葉が浮かび上がる。


 ―――― 消えたくない ――――


 その言葉を思い出した瞬間体中の血が泡立ち上へと昇り始める。

額には青筋が立ち、体中に力がこもる。


「貴様の…… 貴様の暇つぶしという道楽に他の物の命を巻き込むなッ!! 挙句の果てにまだ命を無為に奪うだと!? ふざけるのもいい加減にしろ!!」


「混ざり物が、だれに口をきいている? 人の味方にでもなったつもりかえ? まぁいい…… 人間で遊ぶ前に貴様で遊ぶとしようではないか!!」


「人間のためではない、私が貴様を気に入らないから殺すのだ。この地に来たことを後悔させてやろう!!」


 そう言い放ち、鬼人は百足に向かって跳んだ。

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