そりゃねえぜ!
Jack Torrance
第1話 そりゃねえぜ!
俺の名はジェフリー マードック。ここだけの話。誰にも言わないでくれよ。俺は、実は25にもなって、まだチェリーボーイなんだ。商売女で筆下ろしなんてロマンティックじゃねえしよ。彼女なんて出来たためしがねえ。俺はルックスも悪いしよ、おまけに短足でチビとまできてやがるしよ。俺は神を呪ったね。そんな俺にもガキの頃から何をやるにも一緒っていう幼馴染みがいてよ。名はポールって言う奴なんだけどよ、馬が合うつうか、阿吽の呼吸つうか何をやるにしても楽しい訳よ。このポールってのがジェームズ カーンをワイルドにしたっていうような男前でよ。スティーヴン キングの『ミザリー』に出ていた主役のおっさん。『ゴッドファーザー』のアル パチーノの兄貴役の人って言った方が解りやすいのかな?そんでもって、ポールの親父さんもジェームズ カーンそのままってみたいな親父さんでよ。『ミザリー』でのカーンの役名のポール シェルダンにちなんでポールって名付けられたって訳さ。そんでもって、もう一丁おまけってな感じでポールのおふくろさんがその『ミザリー』のもう一人の主役のキャシー ベイツにそっくりってな感じなんだな。典型的なアメリカの田舎のおばさんってみたいな感じ。『ミザリー』でのキャシー ベイツが豹変するシーンの演技があまりにも怖すぎてよ。ガキの頃はポールのおふくろさんを見ると思わず小便ちびりそうになっちまったもんだな。映画では、途中から宿敵となっちまうカーンとベイツだけどもよ。ポールんちでは愛し合っちまうっていう嘘のような本当の話。そんでよ、美人は3日で飽きる、ブスは3日したら味が出てくるってな言葉があるけどよ。しかし、そうはならなかった。誤解を招くようだから言っておくけどよ。別にキャシー ベイツがブスなんて言っちまってる訳じゃねえぜ。結婚して1年目にポールが生まれたんだけど、ポールが3つの時に親父さんとおふくろさんは別れちまった。ポールの親父さんは別れてすぐにジェニファー ロペスみたいなラテン美女と再婚してよ。だから、ポールの継母は絶世の美人だ。おふくろさんは再婚する事も無く近所の靴工場で働きながらポールをハイスクールまで卒業させた。全く頭が下がるおふくろさんだ。ポールは長身でそのワイルドな風貌からしてよ。女に持て囃されるのなんのって。取っ替え引っ替えってな感じで彼女が入れ替わっていたな。俺とポールの間柄からして、いつかお零れが回って来るんじゃねえかと期待していたけどよ。一向にその気配はねえ。金曜の夜。ポールから電話があってよ。俺はマスでもかいて寝ちまおうと思っていたんだけどよ。それは21時頃だった。「ジェフリー、俺だ。今、ヴィーナスで飲んでるんだけどよ。お前が、寂しい金曜を過ごしていると思ったらよ。なんだかブルーな気分になっちまってよ。それに大事な話もあっから出てこいよ、相棒」大事な話?そりゃ、そんな事言われちまったら出て行くよな。俺はバーに向かった。そんでもってヴィーナスに着いたらポールの横にいい女がいてよ。いい感じで二人とも酔っ払っちまっていた。「よお、ジェフリー、来たか。まずは、駆け付け一杯だ」俺は、ジントニックを頼んで飲んだ。「実はよ、お前に彼女を紹介しようと思ってよ」俺は、その場で飛び上がりたくなるくらい喜んだね。ポールの横にいるいい女を見れば誰だって喜ぶと思うぜ。俺は、ポールが彼女を紹介してくれるのを待った。「ところでよ、彼女はジェイミーって言って俺の新しい彼女だ」ジェイミーがポール越しににこっと微笑んできた。そりゃねえぜ、ポールって思ったね。餌を前に出されてお預けを喰らっている犬のような気分になっちまった。ヴィーナスでヴィーナスが俺の手からするりと零れ落ちたような気分だった。「さっき言った彼女を紹介するって件だけどよ。明日の17時に俺のアパートに来てくんねえか。そこで紹介するからよ」そっか、ジェイミーじゃなくてもポールは女を紹介してくれるって言ってたな。やっぱ持つべき物は友だな。俺は妄想が膨らみその夜はしこたま飲んだ。そして、ポールとジェイミーは夜のホテルにしけ込んじまった。翌日、俺はいちびっちまって、一帳羅で粧し込んでよ16時45分くらいにポールのアパートに着いちまった。呼び鈴を鳴らすとポールが出て来た。「よお、早かったじゃねえか。上がってくれよ」リヴィングで人の気配がした。俺は胸が高鳴った。入って見たらポールのおふくろさんだった。よそ行きの服装をしていたので何処かに出掛ける前にポールのとこに立ち寄ったんだろうなと思った。「こんちは、おばさん」「あら、ジェフリー、こんにちは」おふくろさんは頬紅を点していたので恥じらっている女学生のように見えた。「実はよ、ジェフリー、おふくろがお前の事をすきらしくてよ。ジェフリー、お前なら俺はおふくろの相手に相応しいと思ってるんだぜ」ポールがウインクしながら言って来やがった。えっ、えっ、えっ、そ、そ、そ、そりゃねえぜー!ポールのおふくろさんがもじもじしていた。神よ、何故、この幼気(いたいけ)な俺に試練を与えるのか?論理的と言う観点からしてみれば空想に耽り情欲に溺れていたかもしれないが、倫理的と言う観点からしてみれば俺は貞操を守り肉欲と言う贖罪からは免罪の筈だ。俺は友を選ぶべきか?虚空を見つめながら俺は途方に暮れていた…3時間後…俺はホテルの一室でポールのおふくろさんにやさしくリードされてチェリーボーイを卒業していた。一戦交えた後、「初めてにしては上手だったわ、ジェフリー」と言っておふくろさんは、また俺を求めてきた。年の差32歳。その日を境にポールの野郎は俺の事を親しみを込めて、こう呼ぶようになった。「ダディ」と…
そりゃねえぜ! Jack Torrance @John-D
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