番外 私の居場所ができました

「おう、そこのガキ·····生きてんのか?」


 地面に制服に身を包んだ少女が倒れている。


「·····あ、う」

「まだ息はあるな·····よしガキ話は後で聞くからな」


 俺はガキを担いで店に戻った。


「飲めるか?」

「はい·····いただきます」


 恐る恐るスープを飲み始める。


「美味いか?·····いやぁ最近かみさんが病気で入院しててな飯作ってんだけど俺料理の才能ないのか全部不味くなるんだよ」


 静かな店に俺の声が響く。


「なぁガキお前なんであんな所にいたんだ?」


 俺がそう聞くと少女は俯いた。


「すみません·····迷惑かけるつもり無かったんですけど·····私、死ぬつもりだったんです」


 私の両親なんですけど、些細な事で暴力を振るわれるんです。

 母には「生まれ来なきゃ良かったのに」って言われて、父は私の体を見る度に変な目で私を見ます。

 今日父にその·····お、襲われそうになって·····


 嗚咽を漏らしながら泣く少女。


「·····す、すみません情けないところを·····ありがとうございました、スープ美味しかったです」


 扉に手を掛けようとしたに俺は


「·····おい待てガキ·····お前が良けりゃここで働かないか?」


 俺の言葉に少女は目を丸くした。

 俺は話し続ける。


「ここにこんな仏頂面のジジイ一人じゃなかなかに寂しくてな、看板娘が欲しかったんだよ」

「え?あ、え?」


 少女は俺の言葉に戸惑っている。


「親は気にすんな俺が何とかしてやる·····で、どうだ?」

「これ以上迷惑をかける訳には·····」

「ガキが迷惑とか気にすんな、こういうときは大人しく頼っとけ·····子供が遠慮するのは小遣い貰ったときで十分だ」


 俺がそう言うと少女は目からポロポロ涙を流している。


「い、いてもいいんですかここに·····」

「あぁ·····構わねぇよ」


 こうしてガキが俺の家族になった。


 彼は本当に親の事を何とかした。

 私がされてきた事を不思議な結晶にして警察に見せていた。

 彼の奥さんにも歓迎されて私は働きながら生活している。


「キロク屋?」

「おう、俺の店はな人の人生を預かる店してんだ」


 そう言って彼は結晶を見せた。


「綺麗、です」

「だろ?人の人生をこうやって結晶にするんだここには沢山の記録がある」

「なんで人生を預けるんですか?」

「そりゃ·····わかんねぇな!」


 そこで私はふと疑問が浮かんだ。

 記憶を抜くということはその時の経験を抜き取るということなのではないかと。


「経験は?記録を抜いたら自分のできたことできなくなるの?」

「頭から記憶がなくなっても経験は体が覚えてるんだよだから忘れねぇ、誰かを愛したことを忘れても心と体がその人を愛してるのを覚えてる…って今のお前に言っても分からんか」


 私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてガハハと豪快に彼は笑う。


「あ、そういえば·····コンゴウさん私の記録って保管できたりしますか?」

「ん?あぁできるが何についての記録だ?」

「私の·····家族だった人たちの」

「そりゃなんでだ?」

「あの人たちの記録は·····すごくつらいものなんですけど·····感謝もしてるんです·····今こうしてここで生きていることにだから·····忘れないように·····あ、でも取ったら忘れちゃうんですけどね!」


 私がここに来なければコンゴウさんに会うこともなかった。

 もしここのお店の前で倒れてなかったらもうとっくの昔に死んでたかもしれない。


「·····キロク屋さんこれは?」


 ショウちゃんが不思議そうにカウンターに置いてある瓶に入った濃い青色の結晶を見る。


「あ〜それ?この前片付けた時に見つけてね、飾ってみたの」

「綺麗ですね」

「これはね·····素敵な思い出なんだよ」


 私は笑ってそう言った。




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キロク屋 赤猫 @akaneko3779

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