記録の整理

「よっこいしょ!」


 重い物を持つと腰が痛くなる。


「キロク屋さーん!これどこに持ってけばいいですかー?」

「えっと、それはねそこに置いといてー!·····スミレさん?手伝ってくださいよ」

「何を言ってるキロク屋手伝ってるだろ?·····ショウが」

「なんで子供が頑張って親がサボってんのよ·····」

「スミレさんは仕事してるんで·····許してやってください」


 荷物を運び終えたショウちゃんが言う。


「·····ショウちゃんに免じて許してあげる」

「ワーソレハアリガタイ」


 パソコンと睨めっこしながらスミレさんは言った。


「スミレさん〜?心がこもってないよ〜?」


 片付けが終わって私たちは休憩をしていた。


「ありがとうね片付け手伝ってくれて·····いやぁ助かった!たまたま2人が来てくれてよかったよ〜」


 そう2人はたまたま私の店に寄ってくれたのだ。

 それでショウちゃんが「手伝いますよ」と言ってくれて今に至る。


「キロク屋さんにはいつもお世話になってるので·····ね、スミレさん?」

「そうだな·····大事なお得意様だよ」

「いつも情報提供ありがとうね」


 そんな会話をしているとショウちゃんの電話が鳴った。


「すみませんちょっと席外しますね」


 そう言ってショウちゃんは店を出た。


「·····スミレさん」

「なんだ」

「すっかり母親の顔になっちゃって·····私は感動したよっ!痛い痛い!やめてこめかみをグリグリしないで?!」


 無言でこめかみに攻撃をするスミレさん。

 少し照れてるのか耳が赤くなっている。


「私の事はどうでもいいだろ!」

「友達として心配してただけだもん〜·····スミレさん?やめて?その拳を下ろして?」

「すみません電話長引いちゃって·····って何してるんですか!?」


 ショウちゃんがスミレさんを止めてくれたおかげで私の命日が今日にならずに済んだ。


「スミレさんごめんね流石にいじり過ぎた」

「·····私も取り乱したしお相子だ·····すまんな本気で殴ろうと思った」

「全く2人して何してるんですか·····」


 呆れた様子でショウちゃんが言う。


「キロク屋が私をからかう「言い訳は聞きませんよ」


 ピシャリとショウちゃんは言うので、スミレさんはしゅんとした。


「し、ショウちゃん私が悪いからね?」


 私は慌てながらショウちゃんに言った。

 ショウちゃんが怒る事は滅多にない。


「キロク屋さんも悪いですけどスミレさんも手出しちゃってるんでスミレさんも悪いんですよ」

「は、はい·····」


 私はショウちゃんの気迫に負け何も言えなかった。

 しばらく私たちはショウちゃんの説教を大人しく受けることになったのだ。

 そしてようやく開放された。


 二人が帰って店の中は静かだ。

 私はぼおっと飾った濃い青色の結晶を見ている。

 カランとドアが開いた。

 私は立ち上がってお客さんにいつもの言葉を言う。


「いらっしゃいませ」


 ここはキロク屋記録を売り買いする不思議なお店。

 怒り悲しみ、楽しかったこと、愛しかったことを結晶にして永遠に忘れないようにする場所。

 昔誰かに質問をされたが記憶が無くなると自分の経験はどうなるのかとできたことができなくなるのかと、私はその時にこう答えた。


 これは私の師匠みたいな存在の方の受け売りなんですけど、思い出は抜き取れば忘れてしまうけど経験は体が心に染み付いているから簡単に取れはしませんよ。と





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