第35話 めでたしめでたし

ジウェインは盛大なため息をついた。


「どうしたんです? 楽しくないですか?」


横を見るとロイアナが、ロイの格好で心配そうに覗き込んでいた。


「いや、とても楽しいよ」

「ではなぜため息なんかつくんですか?」


ロイアナは前に向き直ると先ほど屋台で買った串焼きを頬張りながらそう尋ねてきた。


「いや、この国で私が男色家だと噂が流れているんだよ」

「へー。先生は男色家なんですか?」

「そ・ん・な・わ・け・な・い・だ・ろ」


このとぼけ顔のロイアナがちゃんと理解するように一文字ずつ切って発音するとロイアナは嬉しそうに笑った。


「はは。ちゃんと分かってますよ。先生は僕のことが大好きですもんね」

「あ、ああ」


私が男色家だと言われる所以が己にあると分かっているのかいないのか。

まぁロイアナが嬉しそうだからいいか。

女性らしく振る舞ったりしなくても、ロイアナはロイアナだ。私はロイアナと出会えて本当に良かった。こうして一緒に過ごすことが出来て本当に私は幸せ者だな。


「幸せですね!」


ロイアナの言葉が自分の思考と重なり目を見開いた。


「ああ、本当に幸せだ」


そう言った私の目にロイアナの周りをサタンがフヨフヨと飛ぶ姿が映り、また盛大なため息を着いた。


「ちょっと、先生。僕とデートしてるってのに、ため息ばっかりつかないでくださいよ!」

「3人で遊ぶことはデートと言わないんだよ」

「ああ。サタンのことですか? サタンは人間じゃないから数えるときは1匹なのでは?」

「そんな! なぜあなたはそんなひどい事が言えるんです!?」


ロイアナの失礼な言葉にサタンが文句を言っている。


「数え方はどうでもいいんだけど、とにかくデートっていうのは2人……2個体?……いや2生物? で行われるものだと思うんだ」






そんな日々を過ごして、初夜の日がやってきた。

2人にはいろいろな事があったこともあり、朝晩の食事の他にデートなど、夫婦としてお互いを知る時間を設けようと2人で決めていた。私とロイアナの正式なお披露目が終わったちょうど2ヶ月後の今日を初夜に設定していた。


自分の準備を終えロイアナが待つ部屋に向かった。

ノックをすると中から小さな声で返事が聞こえた。

ドアを開けベットのある方に近づきびっくりした。

ロイアナはお互いのことを知るためのこの2ヶ月の間ずっとロイの格好で過ごしていたのに、そこに居たのはひらひらとしたレースがあしらってある薄ピンク色のネグリジェを着て、うっすらと化粧が施されたロイアナだった。

それにいつもロイアナの周りをフヨフヨと飛んでいるサタンも不在だ

(当たり前だが少し不安に思っていた)

ロイアナは頬を染めながら恥ずかしそうに俯いた。


「あの、変ですか?」

「い、いや、変じゃない。とても似合っている。世界で一番可愛いよ」


そう言いながら微笑むとロイアナは私の真似をするように微笑んだ。


「ふふ。びっくりしましたか?」

「とても驚いた。だが、無理をして私に合わせようとしてくれているなら……」


その先は、どう言っても失礼なような気がして続ける言葉を探していると、ロイアナがまた「ふふ」と笑った。


「無理はしていませんよ。もともと、男装が好きで始めたわけではありませんので。ただ、この姿をあなたに初めて見せる時にビックリさせたかっただけなんです」


そう言ってハニカム姿はロイの時と同じで、だけどロイの時には感じなかったドキドキを感じた。


「ロイアナ、愛している」

「陛下、私も愛しています」

「……ジウェインと」

「……」

「……ジウェインと呼んでくれ」

「えっと、ジウェイン?」


ロイアナが私の名を呼んだ瞬間、とても幸せな気持ちに包まれた。


ロイアナが助けたエフテイン王国の難民たち110名はコールライト帝国の広大な土地で農家を営むようになり、コールライトは輸入で賄っていた一部の作物を自給できるようになった。

ロイアナがくれたものは想像以上に大きい。

今まで私はとんだ大馬鹿ものでロイアナとの仲を拗らせに拗らせてしまったけれどこれからは絶対に幸せにしようと誓った。





その後、ジウェインとロイアナの間には2人の皇子と1人の皇女が誕生した。

エフテイン王国の災害は収まり、皇女はエフテイン王国へ女王を継ぐために養子に出された。

3人の子供達も全員結婚し、ジウェインは長男に皇帝の座を譲るとジウェインとロイアナはロイアナが過ごしたあの離宮で、時には喧嘩したり、一緒に読書をしたり、一緒に刺繍をしたりとのんびりとした余生を過ごしましたとさ。

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聖女だけど家族から冷遇されて育って隣国の皇太子に嫁がされた。でも相手は乗り気じゃないし会ったこともないので男装して軍に入ります @taira-taichi

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