【遊園地編4】退場ゲート・多江の部屋

〇夕日差すデステニーランド退場ゲートにて


切音さんと散々遊び倒して、気が付いたら太陽の色が変わろうとしていました。

切音さんは職場の人に、私はゼミのみんなにお土産を買って暗くなる前に帰ります。


「切音さん、今日は誘ってくれてありがとうございました」


ギフトショップでもらったキャラクターの風船が、夕日を反射してとてもきれいに輝いています。


「私、こんな性格だからデステニーランドみたいな場所でちゃんと楽しめるか不安だったんです。でも切音さんがとっても楽しそうだったので、一緒に楽しめました」


正直、私は小さいころからお祭りだとかイベントだとかが苦手で、ちょっと遠巻きにしてみているところがありました。私なんかが混ざって一緒にはしゃげると思えなかったし、他の人の気持ちを盛り下げたら申し訳なかったので。

でも、切音さんは私なんて関係なしに楽しんでくれて。私が尻込みしてるのを見るとその手をそっと引いてくれます。


「あー、本当に私なんかが初デスニーのお供で良かったのかな?」


切音さんはどこか申し訳なさそうな顔でそんなことを言います。

切音さん以外に、私の狭い交友関係の中で一緒にデステニーランドに行けるような人は思い当たりません。

高校の頃の友達とならなんとか行けるだろうか、などと思いを巡らしていると切音さんは頬を掻きながら眉を下げて困ったような顔をしました。


「いや、私って気が短いからさ? つい行列の待ち時間にイライラしちゃったり、いろんなアトラクションに乗ろうとして友達を振り回しちゃったりで。私と一緒にデスニーに行こうなんて子、いなくなっちゃったんだよね」


多江も無理しなくていいからね、あはは。と続けて切音さんは笑いました。

この人は何を言っているのでしょう。私のような人間にとって、切音さんくらいぐいぐいとリードしてくれる人がどれだけ貴重かわかっていません。私が今日どれだけ楽しかったのか、全然伝わってません!


「そんなことないです! 私、今日はほんっとうに楽しかったんですよ!? 切音さんは私がこんな格好で嘘を吐けると思いますか?」


そう言う私はまだ頭にクマ耳を着けたままですし、左手には風船を3つも持っています。


「また一緒に来ましょうよ。今度は泊まりで、夜のパレードも一緒に見ましょう」


そう言うと切音さんはやっと困り笑顔をやめてくれました。


「本当? 迷惑にならない?」

「なりません。約束ですよ」


お土産袋をぶら下げた手の小指を差し出すと切音さんも風船を持った手の小指を絡ませてくれました。袋の重みが、約束の重みみたいでちょっと嬉しいです。


「ありがとね」

「こちらこそです」


私たちはそう言って、退場ゲートの前で指切りをしました。



〇鈴虫の声が聞こえる多江の下宿にて


私は今、お風呂からあがって今日撮った写真をスマホで見返しています。

インスタグラムみたいなオシャレなところに投稿する勇気はないけれど、今日のこの写真は大切な思い出としてとっておこうと思います。私の顔、たぶん今すごくにやけてます。


「今日は楽しかったなあ」


思わず声に出ていたことに驚いて、つい辺りを見回してしまいました。

けれど本当に楽しかったんです。またいつか、切音さんと一緒に行けるといいなあ。


ブーッ、ブーッ


「わう!」


切音さんからのLINEが来ました。見ていたかのようなタイミングに変な声が出てしまいます。

切音さんの方で撮った写真を送ってくれたのでしょうか?

えーと、メッセージを開いて、と。


『今日はどうもありがとう。それでね、次の週末なんだけどデステニーランドで花火大会があるらしいの。園内のホテルから見られるんだって! 電話してみたらセミスウィートにキャンセル空きがあったんだけどもう予約しておいていいかな? 多江は当日なに着ていく? 私、制服デスニーとか一回やってみたくって……』


あわわわわ。

こ、切音さん、これはいくらなんでも。


「き、気が早すぎです!」


完。

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我慢ちゃんと短気さん @Ishihei

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