25話


 いつものスラム街路地裏に出る。


 スラム街とは言っても、都市計画的に最初から落伍者を集めるつもりで区画を作ってるわけではないから道幅もそれなりに広いし教会もある。


 ただ、人の気配が無いうらぶれた雰囲気とかが無関係のよそ者を拒絶するような立ち寄り難さをかもしているだけ。


 人生に絶望した覇気の無い目で道の端に座り込んでる人がいたり、たむろしている人たちに睨まれたりするだけで、露骨に路上生活している人は居なさそうなので『スラム』と言ってしまうと言いすぎなのかもしれない。





 そしていつもどおり? 教会に顔を出す。慣れたものだ。



「おはようございますタモツさん」



 シスターアメリアに先制攻撃されたよ。待ち構えられていた。

 事後処理を任せて逃げた身だから、あまり強いことは言えない。


「すいません、今日ちょっと外せない用事がありまして。

 あの後なにも問題ありませんでしたか?」



「はい! この度は、本っっっ当ぉ~~~~に、ありがとうございます!!」



「いえ、ワタシもわざと蜂の巣をつつくようなことやっちゃいましたんで、騒動が収まるまでは気が気じゃなかったんですよ」



「それでも、タモツさんに来ていただく前から事件のターゲットになってたわけですし。

 失踪してる子たちのこと考えるといたたまれないですけど、北門教会の孤児院とあわせてこれ以上被害が出ないと思えば、それ以上を望むのは欲深すぎるというものです」



「そんなことありません!

 力無き者から一方的に奪うのは、まぎれもない『悪』ですよ!」


 ちょっと強めに反論してしまった。

 気分はまだ戦闘モードだなあ。





 恒例の、女神様に手をあわせるルーティーン。


 奉納品なににするか考えてみるけど、お菓子ばっかりだなあ。

 ピザの他は弁当系ばっかりだ。


 ごはん、お米には抵抗感無さそうだけど箸が使えないとなればスプーンで食べるのはカレーしか無い?


 こちらで買った屋台の肉串とかも出せるけど、夕方まで置いて冷めちゃったら固くなりそうだし。



 次のために菓子パン惣菜パンを大量購入してこよう。



・・・と、決意したところでほんのわずかな違和感に気付く。

 これ、〈召喚〉できるんじゃね?



“えむぴー”を倍ぐらい持っていかれた感じだけど〈召喚〉できてしまいました。



 倍のMPと言っても1日で10万円ぐらい召喚できるのが半分になったところで、食い物に5万も使うかと聞かれれば誤差の範囲だよなあ。


 おかず系惣菜パンと菓子パンを半々ぐらい、30個ほど用意して奉納。

 パン屋さん、専門店のはおいしいけど個包装されてないのがなんとなく嫌で、大手メーカー品やコンビニブランドの中から思いつくままに。

 ちなみに2個目からは通常感覚でした。


 言うなれば、コンビニで見かけた名店の名前を冠したカップ麺を300円で買ったけど、量販店で半額150円で見かけた、みたいな? 買うけど?



 あと大銀貨1枚1万円。これでも子供15人で1日分の食費には十分。




「では用事がありますので、これにて失礼するでゴザル」


 デュフフと笑おうとしたけど、うまく笑い声が出なかった。

 今さら空振りをフォローするのもなんとなく恥ずかしいぞ!






 今日の予定は、公爵夫人にケーキセットを納品すること。

 貴族街に入るの、当然と言えば当然なんだけどなにげに面倒なんだよな。


 今日は背広というかワイシャツとスラックス、靴だけごつい登山用ブーツだけど、貧乏町人スタイルと着替え分けるのが面倒なのよねえ。


 歩きながらネクタイ締めてジャケット羽織る、これだけで貴族街に入れるドレスコードと言っていいのかね。




 今日は北門側の貴族街入り口から入る。


「公爵家に用事がある」と、伝家の宝刀『公爵家家紋のペンダント』を見せると、それだけでほぼフリーパス。



 この通りをまっすぐ行けば公爵家別邸だ。ここ、北門入り口からでも敷地が見える。

 公爵家ルミエスタ別邸と言っても、居住空間だけなのでちょっと立派な旅館料亭ぐらい。まだ常識的に理解できる広さ。



 ルミエスタ辺境伯家のほうは行政府を兼ねているので結構な大きさがある。

 市役所の一角が自宅みたいな、あまり住みたくない環境だ。






 公爵邸に向かう。門の人と目が合う。

 門の人と自分、ふたり同時に頭を下げる。



「タモツ様、お待ちしておりました」


 声をかけられ、そのまま流れるように邸内に導かれる。



 応接室か厨房か聞かれたので厨房のほうがいいと伝え、そちらに案内される。


 自分のほうは気をつかわなくて楽だけど、公爵夫人は気楽にこういうところに顔を出すものなのかな。



 

 今日の分のケーキ2箱20個を出す。あわせて小箱いくつかと保冷材をどっさり。

 夫人とメイド長さんが相談しながらてきぱきと詰め直し、メイドさんが指示に従い邸外に走る。


 金貨4枚(40万円)分の小切手を切ってもらう。


 ケーキ20個1万円ちょっとが大化けするなあ。しかもMP召喚だから元手もいらないし。

 ふと考えがそちらに流れると、どうも申し訳なくなる。




「次、明日用意していただいてよろしいかしら?」


 夫人が待ちきれないという感じで次の約束を催促する。

 甘味の前では、女性はいつでも若いお嬢さんだなあ。



「承りました。今まで通り20種類でよろしいですか?

 なにか特に人気で取り合いになってるとかそういうのはありません?」




「確かに人気のものはありますが、誰はこれが好きというもので特にひとつに人気が偏るようなことは無いですわね。

 あと、全員同じものでも面白くないでしょ?


 白いふわっふわのクリームと見たこともない美味しすぎるフルーツが乗っていれば誰も文句なんて言いませんわよ」



「なるほど。では数量は今までどおりで。


 あと、ひとつ相談なんですが」




「なになに、なんでも言ってみて」


 なんだこのかわいい生物は。

 50歳より上のご夫人には見えないぞ。




「ちょっと雑貨を売れる店を構えたいと思うんですが」


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おっさんですが、異世界召喚されちゃいました 健康中毒 @horiate1d2

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