主張が苦手な高校2年 由芽の葛藤

松本タケル

主張が苦手な高校2年 由芽の葛藤

『ニンゲンとは矛盾を是とする生物である』


哲学者の言葉のようだが違う。


これは高校二年生の由芽ゆめが、日頃感じることを端的に表したのものだ。


「明日、班で議論するのでしっかり調べて見解をまとめてくるように」


こんな宿題が出されることがある。


由芽ゆめはそんな時、背景を徹底的に調査し、自分なりの理屈を作り上げる。


だが、議論の場でそれを主張することはない。


由芽ゆめは引っ込み思案で主張するのが極端に苦手なのだ。


主張はしないくせに 『大勢の意見だから』 という理由で同調はしたくない。


「A案かB案かどちらが適切か手を上げてください」


先生がそう言って挙手をうながす。


クラスの大部分の人は声の大きい人の意見に賛同する。


しかし、由芽ゆめはそうはしない。


クラスで一人だけ違う意見に手を挙げたこともある。


『主張する』 って何だろう。


ほとんどの人が、自分の意見を優先してほしいと思っている。


会話をしても、相手の話よりも自分の話しを聞いて欲しいと思う人がほとんどだ。


自分の事ばかり話すと周りの人に嫌われる。


それが分かっていても、やはり自分の話しを聞いて欲しい。

 

そんなに自分が優先なら群れずに一人でいればいいと思う。


でも、一人でいるのは嫌なのだ。


嫌われたくない、一人でいたくない。でも、自分のことは主張したい。


『そう思うニンゲンは矛盾している』。由芽ゆめはそう思うのであった。



帰宅部の由芽ゆめは、学校帰りに川沿いの土手で本を読む。


その日も土手で本を読んでいた。


「あれ、由芽ゆめさん?」


背後から女性の声。学級委員の亜理紗ありさだ。


話し上手で、容姿端麗なクラスの人気者。


「横、座ってもいい?」


「うん・・・・・・いいけど」


直接、話したことはほとんどない。


「・・・・・・」


話題が浮かばない。


「一度、ちゃんと話してみたかったんだ」


亜理紗ありさは体を半分、由芽ゆめの方に向けて言った。


「私・・・・・・と? なんで?」


由芽ゆめさん、今日の議論でも四十人中、三名しかいない方の意見に手をあげてたよね。あれって何か理由があるんでしょ?」


「うん、まあ・・・・・・私なりには」


「いつも気になってたんだ。少数派になった人のほとんどが 『しまった、空気読み間違えた』 みたいな顔するけど由芽ゆめさんは違うんだよね。何ていうか、意思をもってそっちを選んでるような」


そこまで見ている人がいることに由芽ゆめは驚いた。


「もし良かったら理由、聞かせてくれない?」


「いいけど、私、結構、理屈っぽいよ」


「うん、是非!」


「昨日の課題だけど、まずは経済産業省の白書を調べたの。そうしたら、課題で出されているデータは直近三年分だけだって分かったの。傾向を分析するのに三年じゃ少ないと思った私は、さらに過去十年分のデータを白書から抽出したの・・・・・・って、これって楽しい?」


「うん。もっと話して!」


「そのデータを表計算のソフトに入力してグラフ化してみたら、おもしろい傾向が分かってきたの、それで・・・・・・・」


由芽ゆめは自分でも驚くぐらい怒涛どとうのように話した。


亜理紗ありさはそれを一つずつうなずきながら聞いていた。


「すごい、すごい!」


由芽ゆめが話し終わると、亜理紗ありさは目を真ん丸にして言った。


お世辞かと思ったが嘘ではないようだ。


「私さ、実は自分の意見がほとんど無いんだよね」


亜理紗ありさがポツリと言った。


「そうなの? 亜理紗ありささん、活発でそんな風には見えないんだけど」


「Aさん、Bさんと順番に意見を聞いたあと、それをいくつかに分ける。分けたグループの間で話し合ってもらって私はそれを聞く。最後に納得できると思う側につく。それが私のやり方。それでいいのかなって時々思うの」


「意見をまとめる能力って、私すごいと思うよ」


由芽ゆめはお世辞ではなく本心で言った。


「本当? うれしい!」


亜理紗ありさはニコッと笑って由芽ゆめを見つめた。


亜理紗ありささんはやっぱり可愛いな)


自然にこういう仕草ができると人気が出るのも当然だ。


「ねえ。また、由芽ゆめさんの話し聞きたい。明日もここにいる?」


「へ?」


由芽ゆめの話を聞きたいと言う人はこれまでいなかった。


亜理紗ありささん・・・・・・が、本当に私の話しが聞きたいの?」


「うん、いっぱい聞きたい」


「あと、亜理紗ありささんじゃなくて、亜理紗ありさって呼んで」


「じゃあ、あ、亜理紗ありさも・・・・・・由芽ゆめさん、じゃなくて、由芽ゆめって呼んで」


由芽ゆめは恥ずかしくて、少し下を向きながら言った。


「じゃあ、由芽ゆめ。あしたもここでね。私、予備校あるから行くわ。邪魔してごめんね」


そう言い残して亜理紗ありさは風のように去っていった。


亜理紗ありさにそんな悩みがあったなんて以外だった。


そして「誰かに思っていることを話すのも悪くないかも」 と思った。


由芽ゆめは本を閉じて夕日を見ながら、翌日に話すことを考え始めた。






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