79.足の引き合いか、友情の始まりか
フォンテーヌ公国は、ジュベール王家の残骸の上に立つ砂の城だ。地盤が盤石ではなく、いつ崩れてもおかしくない。その土台を固める者が現れた。
「フォンテーヌ公国、国主たるクロード閣下にお目にかかります。ランジェサン王国第二王子アルフレッドと申します」
「叔父と甥の関係だ。畏まらずともよい」
通された応接室で、丁寧に頭を下げる若者に、クロードは笑いながら着座を促した。素直に従う甥は、淡い金髪をかき上げる。顔を隠すほど長い前髪が、後ろに撫で付けられた。それだけで雰囲気が変わる。
「お久しぶりです、クロード叔父上」
「つい先日、屋敷の奥庭でそなたを見かけた気もするが?」
こっそり迷い込んだ自称庭師を揶揄すれば、アルフレッドは肩を竦めた。やれやれと呟き、こういう時は知らないフリをするのがマナーでは? と返す。言葉遊びが一段落したところに、別の来客が告げられた。
「客?」
予定にない訪問に眉を寄せるが、すぐに思い出した。近日中に訪ねる息子は先触れを忘れるだろう、と言った友人がいる。なるほど、息子の言動を把握しているようだ。
「構わん、通せ」
フォンテーヌを挟んで両側の大国同士、皇族と王族は無視できぬ。シルヴェストルを呼ぶよう侍女に申し付け、執事クリスチャンに案内された客人を迎えた。
「フォンテーヌ公国の建国を祝いに駆けつけました。先触れなしの御無礼、お許しください。バルリング帝国皇太子、カールハインツと申します」
「先触れなら、父君から届いている」
座るよう指示し、向かい合わせに2人の若者を配置した。バルリング帝国とランジェサン王国の次代が見合う形になり、そこへノックして入室したシルヴェストルが加わった。
「父上、彼らは……」
目を見開いたシルヴェストルは、すぐに我に返り挨拶を終える。ここでクロードが立ち上がった。
「ここから先はそなたらで話せ。年寄りなど交えても、実りはないぞ」
さっさと部屋を出ようとした父の背に、シルヴェストルはきっちり楔を差す。
「父上、ティナは部屋で刺繍をしております。邪魔をなさいませんように」
「わかっておる」
この会話に、2人が反応した。期待に満ちた目をするが、慌てて伏せる。その様子を観察したシルヴェストルは内心穏やかではなかった。
バルリング帝国の皇太子カールハインツ、ランジェサン王国の第二王子アルフレッド。どちらも妹コンスタンティナの結婚相手として申し分ない地位と財産、肩書を持っている。だが渡さんぞ。政略結婚は認めない!
穏やかな笑みを作り本心を隠すシルヴェストルは、巧みに話術で彼らを絡め取ろうとする。その意図を察して躱したのはカールハインツだ。アルフレッドは巻き込まれる前に黙った。どちらも策謀渦巻く宮廷で育った強者、簡単に引っ掛かりはしない。
徒労に終わるやり取りの後、3人はそれぞれを認め合い、友情を深める奇妙な縁を繋いだ。
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