64.もう途中で止められなかった

 何度も口籠り、自分に都合のいい言葉を探してしまう。けれど、そのたびに深呼吸をして呟く。すべて私が悪い――その言葉通り、ドロテはすべてを話した。涙で濡れた目は腫れ、両親の表情は見えない。それでよかった。もし父母が軽蔑の眼差しを浮かべたのが見えたら、口を閉ざしてしまうから。


 前回の話を終える直前、迷いながら吐き出した。


「あの時ね、私は有頂天だったわ。生まれながらにすべてを手にした公爵家のお姫様に勝った、そう思ったの。体一つでのし上がった、私の方が優れているのよって……髪を切られて泥の石畳に倒れた彼女を前に、これから殺されちゃうのを知ってて」


 夜会前日の王太子の言葉を思い出す。彼は私を抱き締め、何度もこの体で果てた。その時に囁かれた言葉は、とても魅力的だったのだ。お前はこの王国の頂点に立つ女性になるのだ――と。


「浮かれたの。何でも手に入る、これからは何も苦労しなくていいと思った。綺麗なお姫様が持っていた以上の物が、全部私の物になるから」


 しゃくりあげる呼吸を整えて、一気にまくし立てた。途中で止まったら、二度と言えない。今の勢いを借りなければ、絶対に吐き出すことが出来ない醜い感情だった。両親の声は聞こえず、腫れた目蓋が視界を遮る。流れる涙が染みた。


「王家が貧乏になって、周りが誰も言うことを聞かなくなったわ。王宮で贅沢をしていた私は知らなかったの。税金が上がってみんなが苦しんで、そんな時、お腹に子どもがいると分かった」


 今はまだ平らな腹を撫でる。この中に確かにあの子はいた。どちらの子であっても可愛い。でもどちらの子か、それが命運を分けた。この国は女神の加護により、父親の髪色を継承する。それは他国から嫁いでも、このジュベール王国の血を引く者との間に子を為せば同様だった。


 お姫様が公爵閣下そっくりの金髪であったように、腹の子は赤毛か黒髪。宿ったと知った当初はどちらでもいいと思ったけど、途中で考えが変わった。もし赤毛の子が産まれたら、私の立場はどうなるの? 大切に慈しむ王太子アンドリューは、ジャックの子を産んでも愛してくれるかしら。


 俺の子だ、大切にしてくれ。体を労わり温めるように、口にするたび付け加えられる言葉。執着し目を血走らせて囁かれるたび、恐怖に身を震わせた。お願い、黒髪で産まれて。そうしないと殺されてしまうわ。必死に腹の子に話しかけたが……願いは届かなかった。


 産まれた子の髪色に、赤毛の護衛騎士は即座に首を落とされた。父親を失った我が子は取り上げられ、その後の行方は知らない。王家は私を切り捨てた。石打ち刑に処されたことで、痛みと罵声を浴びながら最後の一息まで苦しむ。子を産んだばかりで空になった腹は痛み、張り詰めた乳は私を責めた。


 あの子はどうなったの。私が悪いんじゃないわ、だって王子様が私を愛しただけ、公爵家のお姫様より私を選んだのよ。選ばれた私の罪なの? 叫んだ言葉によりさらに痛みは長引いたけど……あれが罰だとしたら、お姫様はもっと苦しんだのよね。

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