59.建前と本音を共存させる政
捕らえた罪人を引き連れ、凱旋するフォンテーヌ公爵軍は歓声に包まれた。被害を受けた者や脅かされた者の怒りを発散させるため、多少の振る舞いは許容される。石打ち刑に似て、石を投げ罵倒する。拳より小さな石を騎士達は「見えない」フリをした。
死なさずに罰を受けさせることが目的だ。まだ吐いてもらう情報もあった。だが領民の怒りは察して余りある。騎士とて家族や妻子のある若者達だった。己の親族が同じ目に遭ったら、咎められようと戦う。それを我慢させたのだ。領民の小さな復讐を見逃すのは、誰も同じ心境だった。
罪人を牢へ放り込み、情報を得るための拷問にかけていく。専門の部署があるため、出撃した騎士や兵士が立ち会うことはなかった。人の体はどこもかしこも痛い。それをよく知る者らは、容赦なく情報を搾り取った。
フェルナンの処分は保留。貴重な情報を齎した人物であり、後半の事件に彼が関わりないと罪人達が証明する形となった。計算業務をこなしながら、今は情報収集に力を発揮している。元が地下の闇組織を形成する実力者だ。それが捨て身の行動から来たとしても、彼の有能さは揺るがなかった。
リュフィエ公爵家は民からの突き上げに堪え切れず、事実上破綻した。元から自領の食料自給率が低い。難民を拒否して街道を封鎖したことで、経済が回らなくなった。モーパッサン公爵領では、反乱が起きる。難民を隔離して労働条件が悪い仕事場を斡旋したため反発。貧しい生活に不満を持つ領民も加わり、軍が民に剣を向ける事態となった。
どちらの家も、すでに立て直しは難しいだろう。集まった資料に目を通しながら、クロードは息子に問う。
「お前ならどう動く」
「難民を受け入れるには、土地も仕事も足りません。統合出来るかどうか」
見捨てる選択肢はない。愚かな王家と同じ行動は御免だった。だが現実は厳しい。受け入れる決断には、責任が伴うのだ。
「お前らしい。視野を広げろ」
両公爵家の土地を接収すればいい。仕事は公共事業を立ち上げるなど、支援が必要だった。ならば足りない人材と金をどこから捻出するか。
「視野、ですか」
「そうだ。この世界に国は一つではないぞ。ヴォルテーヌがすでに証明しておる」
バルリング帝国に領地を併合したヴォルテーヌ。領地を接するが故の行動だ。ならばフォンテーヌと国境を接するは、母の故郷ランジェサン王国!
「伯父上を頼るのですか」
「アルフレッドが自ら出向いてきたぞ」
王太子である従兄弟の出現に眉を寄せ、シルヴェストルは言葉を選ぶ。だが結局、直球で尋ねた。
「まさか……ティナの相手に?」
「いや。ティナは嫁がせん!」
父クロードの言葉に、シルヴェストルは安堵の息を吐いた。あんな辛い思いをさせた妹を、再び政略結婚などさせない。父と頷きあい、守り抜く決意を新たにした。
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