森のはずれの学校

月乃ゆみ

第1話 おかあさん、だぁいすき!

その学校は森のはずれにありました。

はずれにあったから、森のはずれの学校と言う名前でした。


通っていたのは動物の子供たち。

ライオンの子供や、トラの子供や、クマの子供や、

カバの子供や、キリンの子供や、キツネの子供や、

ウサギの子供や、リスの子供やふくろうの子供。

いろんな動物の子供が通っていました。


ある日、森のはずれの学校に、ゾウさんの子供がやってきました。

みんなゾウさんを見るのは初めて!

ゾウさんの子供は、子供だけど体が大きい。

そしてお鼻が長い!


みんなびっくりしながらゾウさんを見ていました。

だあれもそんな長いお鼻を持っていなかったんだもん。

近づきたいけど、大きい体がちょっと怖い!


見てるだけのみんなに、ゾウさんは声をかけました。


「こんにちは!」


しゃべると同時にお鼻がグウーンと上を向いたんだ。


みんなより少しゾウさんの近くにいたウサギさんは、

びっくりして

「きゃー!」

と悲鳴をあげて尻もちをついてしまいました。


その姿を見て、みんなは笑っちゃたんだー。


ゾウさんは、尻もちをついたままのウサギさんの顔に、

鼻を伸ばしながら

「だいじょうぶ?」

って聞きました。


でもウサギさんは、尻もちをついちゃって、

みんなに笑われて、恥ずかしくて。


「なによ!」

「そんなへんなお鼻を近づけないでよ!」

と力いっぱいゾウさんに叫びました。


「ぼくのお鼻、へん?」

と、ゾウさんはウサギさんに聞きました。


「そうよ!だって誰もそんな長い鼻じゃないもん!」

「みんなもそう思ってるよ!」

とウサギさんは答えました。


ゾウさんが、みんなを見るとみんなは

「うん、うん。」

とうなずいています。


ゾウさんはもう一度みんなを見て、

そしてうさぎさんの方を見て、

鼻を一振りしました。


「このお鼻はね、おかあさんとおそろいなんだよ。」

とにこにこ答えました。


それを聞いたうさぎさんは

「ハッ!」

としました。



「おかあさんはね、長いお鼻で僕の頭をポンポンしてくれるんだよ。」

「それにね、暑いときはお鼻でお水を、ぼくの体にかけてくれるし、

ぼくのお鼻が届かない果物を取ってくれるんだよ。」


にこにこ、にこにこ。

ゾウさんは続けます。


「夜になるとね、お鼻でぼくをぎゅーっとしてくれるんだー。」

とろけそうなゾウさんのお顔。


「ぼく、おかあさんのこと、だぁいすき!」

「おかあさんとおそろいのお鼻もだぁいすき!」


それを聞いていたウサギさんの目から、大粒の涙がこぼれてきました。

ぽろぽろ、ぽろぽろ、落ちていきます。


「ウサギさん、ウサギさん、どうしちゃったの?」


ゾウさんは大きな体で、おろおろ、おろおろ。


「わたし、おかあさんにきらいって、言っちゃった・・・」

泣きながらウサギさんは言いました。


「こんなお耳きらい!」

「おかあさんもきらい!と言っちゃたの・・・」


泣いてるウサギさんにゾウさんは

「どうしてそんなこと言っちゃったの?」

と聞きました。


ウサギさんはちっちゃな声で

「へんだから・・・」

と答えました。

「みんなに、へんだって言われたの・・・」

泣きながら答えました。


そうなのです。

ゾウさんが来るまでは、ウサギさんがみんなに

「へんだ!へんだ!」

と言われていたんです。

だからウサギさんは、みんなと少し離れて立っていたんです。


ゾウさんはみんなの方を見ました。

みんなはうつむいています。


うつむいたみんなの目からも、涙がぽろぽろ。

ぽろぽろ、ぽろぽろ落ちていきます。


そして

「ぼくも、首が長いのがへんだって・・・」

「わたしの口は大きすぎるって・・・」

「シマがあるなんてって・・・」

口々に「へん!」って言われたことを話だしました。


みんな、みんな、だれかに

「へん!」

と言われていたんです。

そしてみんなおかあさんに、

「きらい!」

と言ってしまっていたんです。


でもゾウさんは違っていました。


ゾウさんはみんなに

「へん!」

と言われても、


「だぁいすき!」

と、にこにこしながら、こたえたのです。


そのとき、ホントはみんなも

「だぁいすき!」

と言いたかったことに気づいたのです。


ゾウさんはそんなみんなの頭を、長いお鼻でぽんぽんしてあげました。

みんなが泣き止むまで、ぽんぽんしていました。




 学校から帰った夜、

いつものようにゾウさんはおかあさんに包まれていました。

「おかあさん。」

とゾウさんは呼びかけました


「ぼくみんなに、

『おかあさんとおそろいのお鼻がだぁいすき!』

って言ったんだ。」

「それからね、

『おかあさん、だぁいすき!』

って、言ったんだよ。」

と話しました。


おかあさんは、長いお鼻でゾウさんの頭をぽんぽんしました。

ゾウさんはうれしくて、自分のお鼻をおかあさんにくっつけました。


その夜はあっちこっちの家から、

「おかあさん、だぁいすき!」

と言う声がしていました。


お星さまよりもキラキラした目で、みんな

「おかあさん、だぁいすき!」

と言って、眠りにつきました。


-おしまい-
























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森のはずれの学校 月乃ゆみ @tukino3

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