消えてゆく水滴のような風情があるね。
その語りは読者を作品世界へと誘うかのようで、読み進めるほどに没入を増し、気づけば語りの主人と同化しているような心地に至ります。それゆえに読みと同時にその世界が目に見えるようであり、あるがままに身を任せていると最後には不思議な心地に与ることができます。この感覚、ぜひ味わってみてください。
シナリオ自体の奇妙さもさることながら、何より特筆すべきはその独自性あふれる文体でしょう。早回しのテンポではありますが、読みづらいということはなく、夢を見ているかのように、不思議と受け入れることできる語り口となっています。誤解からその医師の前へと連れて行かれてしまった、『私』。果たして彼女は憂世の辛みを捨てて、得たものは本当に自由であったのか?ラストまで突き抜けた後、もう一度最初から見るとまた違った目線で楽しめて二度美味しい良短編です。